帰り道 ページ12
ふたりで歩く夜道は、静けさに満ちていた。
ゆったりとした歩幅で、及川の隣を歩く。
彼の横顔は月明かりに照らされて、普段より割増にうつくしくみえる。
「Aさんはさ、」
「ん？」
「別れてよかった？」
不安げに聞く彼が不思議だった。
「何であなたがそんな不安そうなの？」
訊ねてみれば、悔しそうに顔を歪めながらぼそぼそと呟く。
「だって、...好きだから。Aさんが、あいつがいいって、いうなら...おれ、またなにも、言えなくなっちゃうでしょ」
そんなことか、と言えば彼は怒るのだろうか。
優しい子供のような、純粋な彼の愛はとても清いものに感じた。
「私は、後悔なんてしてないよ」
その言葉に、満足気に微笑んで
「よかった」と頷く彼の姿は優しかった。
今まで泣いていたのが嘘のように心は落ち着いていた。
静かでも気まずさはない。
お互いの気配だけを感じて、夜を歩く。
1度この感覚を感じたことがあった。
ほんのり気恥しくて、______
「...Aさん？」
頭をよぎったのは高校時代の遠い記憶。
「...Aさん？大丈夫？」
ぴたりと歩行をやめた行動に及川が、不思議そうにみつめていた。
「ごめん、ちょっと、」
途端に彼の視界に映るのが酷く恥ずかしいことに感じた。
「Aさん？」
汚い私は何を考えた？
「やっぱり、ひとりで帰るね。ごめん、ほんと。...ごめん」
零れそうになる涙を堪えて、走り出す。
背後で及川の呼ぶ声が聞こえる。
けれど、彼と話し合えるほど余裕はなかった。
(なんでっ、初デートの事なんか思い出したっ)
醜い自分がこれを愛だと誤解している。
それが、カレを好きだった記憶は偽りであると物語っているようで、
及川にカレの影を重ねているようで、
どっちにしろ、
この純愛を被った醜い感情は、自己嫌悪に陥らせるほどには、充分に重いものだった。
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作者名：島ぞうり | 作成日時：2017年5月7日 21時
