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65.見つめられると ページ20

降谷side


「貴方って本当に……、…やっぱりなんでもない。」


Aは俺の顔をしばらく見つめたあと、

そう言って目をそらした。


そんな仕草も可愛くて、ぽんと頭を撫でてやる。



会場の席は全てペアシートのようになっていて、

ペア同士は異様に近い割に、ほかの席とはそれなりに離されている。


完全にカップル向けのイベントだ。


実際、恋人同士や夫婦であろう人達がほとんどで、


傍から見れば俺とAもそう見えるのかと思うと、

勝手だが、少し嬉しさもある。



…それにしても、


「(…あんまり見つめないでくれよ、心臓に悪いから…。)」


席が近いせいでお互いの方を見ると、

顔が随分近くなって嫌でも意識してしまう。







「…A、」

「なに?」


もうすぐ開始時刻になる、というところでAを呼ぶと、

彼女はようやくこちらを向いてくれた。


そんな彼女に、少しだけ言うのを躊躇ってからそれでもくちをひらいた。




「…嫌じゃなかったか?ずっと俺といるの。」



ずっと、胸の片隅にあった不安。


サザンベルはバーボンの右腕で、安原Aは安室透の友人で、

その上、花澤Aは降谷零の同僚で元カノときた。


ただでさえ、気まずくなるであろう関係だったのに、

四六時中隣にいさせて。


本当に、これで良かったのかと思うことがある。

Aは嫌じゃないのかと。



…そんな不安は、Aによって一瞬でかき消されることになったのだが。



「零は、ずっと私といるの嫌だった?」

「そんな訳ないだろ!

嫌だったらとっくに…」


そこまで言って、Aの言いたいことがわかりはたと言葉を止めた。


「うん、…嫌だったら、とっくに突き放してる。

私だって零の言いなりになってる訳じゃないからね!

距離をとる方法なんて沢山あったけど、



…それでも、私は、零といることを選んだんだよ。」


Aがそう笑う。

思わずこぼれたのであろう、俺の名を呼ぶ声に、胸が熱くなる。



…返事をしようとしたところで、

開演のブザーがなり、ライトが消えて光はスクリーンだけになって。


Aの表情は見えなくなったが、

その声だけが、言葉だけが、頭から離れずに俺の中に残った。




『私は、零といることを選んだんだよ』



…そして、俺はある決意を固め、拳をぎゅっと握りしめた。

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真柚(プロフ) - アオさん» 前回に続き何度もすみません…ありがとうございます!! (2018年5月27日 23時) (レス) id: 8ec7fb59c7 (このIDを非表示/違反報告)
アオ - 58の夢主sideの「どうかした?」が、「どうしかした?」になっています。 (2018年5月27日 14時) (レス) id: 82f5449f8d (このIDを非表示/違反報告)
真柚(プロフ) - 明里香さん» ありがとうございます!助かりました<(_ _)> (2018年5月18日 20時) (レス) id: 8ec7fb59c7 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 誤字がありました。その旨ではなく、その胸です。 (2018年5月17日 23時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:真柚 | 作成日時:2018年5月16日 13時

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