時を超えて 65 ページ39
あの日から、彩は城内でただただ不毛な時間を過ごしていた。
「きゃはは」
「こっちこっちー！」
彩は中庭で遊ぶ子供たちを遠くから見つめていた。
「あっこんにちは菜々さん」
「彩、こんな所で何してんの？」
「あー、あれ」
彩は子供たちの方を指さす。
「なるほどね。ほんと、子供好きね」
「え？」
「いや、こっちの話」
「あっ」
彩は菜々さんの後ろに人影を見つけた。
「あー、名前とか言ったの？」
「言ってへん」
「ちゃんと言いや」
近づいてくる。初めて、顔をはっきり見た。
(あれ…？なんか…)
「この間は打ってごめん」
「えっ、打ったの？」
菜々さんは知らなかったようだ。
「うん」
「はぁ…もぅ」
菜々さんは呆れたように彼女を見た。
「んで、その…私、名前も言ってへんかったよね」
「美優紀」
「えっ」
「美優紀…やんな？」
「そっそうだけど…誰かに聞いた？」
「いや、聞いてない」
「じゃあなんで…」
「わからへん。でも、なんか浮かんできてん」
次に見た彼女の顔は、涙がこぼれていた。
「なんで覚えてるんよ…」
「えっ」
「偽物のくせに」
彼女はそう言葉を吐き捨てて、背を向けて駆け出して行った。
「ほんまに、美優紀は…」
また、菜々さんはその隣で呆れたように溜息を吐いた。
「ごめんね、あの子」
「俺、彼女に何かしたんやろか？」
「何か…。
多分、何もしなかった事がダメだったんやと思う」
「え？」
「今のは独り言。聞かなかったことにして」
菜々さんも美優紀さんの言った方向に歩いていってしまった。
過去の自分が気になる。
自分はどんな人間で何もしてしまったんだろう。
美優紀…
どうしてその名だけはのことは、覚えてるんだろう。
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作者名：ハル | 作成日時：2017年1月2日 19時
