歪みと距離 11 ページ11
右の一番前の席は、嫌でも目に入る。
彩の少し跳ねた襟足が、気になって仕方ない。
昔の私たちならそれも直してあげられたのかな。
「彩」
あぁ、またあの人のところに行くんだね。
またそうやって、私を置いていくんだね。
「行かなくていいの？」
「行けないよ…」
彩が幸せで、笑ってくれてるならそれでいいや。
「邪魔はしたくないから」
「嘘…」
そうだよ、嘘に決まってるやん。
だって、好きなんだもん。
好きな人が好きな人といて幸せそうにしてるの見て、それでいいって思えるほど、私は強くない。
「何やってんの？」
久々に聞く声に、少しビクッとした。
「べつに」
「後…つけてたんやろ。
それくらいわかるよ」
彩が長身の先輩と帰るところを見かけて、無意識に体は動いていた。
彩は数歩進んでから、足を止めて振り返る。
「ほら帰るよ、送るから」
何でそんなに平然に振る舞えるの？
そう感じたけれど、多分それは彼女が私に興味が無いからだろうと思った。
こんな時でも私に歩幅を合わせてくれて、車道を歩いてくれている。
あの頃からそうだった。
なのに、私はそれに気づいてはいなかった。
彼女をちゃんと見ていなかった。
「ねぇ、あの先輩、彼氏なの？」
「さぁ、どうだろ」
ほら、また、はぐらかす。
「美優紀は？」
「え？」
「美優紀はどうなの？」
「どうって…何もない」
「そう」
全く、本当に興味無さそうだね。
無意識でも、私だって傷つくよ。
家に帰ってから、部屋に戻って涙が溢れた。
あぁ、こんなに好きなんだなって、改めて感じた。
「美優紀起きてる？」
「起きてるよ」
ちょっと話そうか、と言って姉は私の部屋に入ってくるとベッドに腰掛けた。
「泣いたの？」
「泣いてないよ」
多分目が晴れているから隠さなくても良かったのかもしれない。
「この間、達也に聞いたでしょ？
どうやって落としたかって」
「うん」
「それ、教えてあげようか」
姉は少し悪ガキみたいに笑った。
「私ね、達也のこと…」
それ全然アドバイスになってないよって思ったけれど、彩もそうだったらいいのに…と思った。
達也のこと昔から好きだったの。
羨ましいな。私も両思いだったら良かったのに。
「あと達也から伝言。
当たって砕けろ！だって。
バカだよね…砕けたらダメなのに」
と、呆れぐわいに言う姉は彼のことを思い出して、幸せそうな表情を浮かべていた。
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作者名：ハル | 作成日時：2017年1月2日 19時
