歪みと距離 1 ページ1
「ん」
愛のないキスを交わす。
「美優紀」
彼女はそう言って、私の身体に触れる。
愛のない行為。
彩は、ただのクラスメイト。
だから、彼女に対してそれ以上の感情は無いし、ましてや愛なんてものもない。
彩は私にとって、ただの代わりでしかない。
そしてそれを彼女は受け入れている。
こういう関係になったのはいつだっただろうか。
来るもの拒まず。
それが私だ。誰でも良かった。
欲求を満たしてくれるなら、別になんでも良かった。
だから、いろんな男と遊んで、抱かれて、そんな毎日を送っていた。
「やっぱ帰る」
「え？俺下手やった？」
「うぅん、ちょっと体調悪いだけ」
そう言って笑って…いや、笑顔を無理やり作って、騙して、そして帰路につく。
「おぉ、美優紀」
家に着く手前で話しかけられた。
それは笑顔が優しい、背の高い男。
そしてそれが私の好きな人。
「達兄、帰るの遅いね」
「それは、こっちのセリフ。
お前こんな時間まで何やってんだよ」
多分、向こうにとって私はただの幼馴染みの妹でしかない。
「うぅん、別に」
「どうせ友達とカラオケとかで遊んでたんやろ？
高校生だねぇ〜」
大学生の達兄は、私の隣の家に住んでいて、そして私の姉とは同級生だ。
「別にそういうんじゃない」
「まぁ、こんな遅く帰ると心配するだろ」
私の想いも知らないで、この人はいつだってドキドキさせる。
けれどそれは、私の心を苦しめているだけだ。
「はいはい。
で、達兄こそ何してたん？」
「菜々を送ったとこ」
「リア充め」
そう、私の姉と達兄は付き合っているから。
愛し合っているから。
私に入る隙間は無い。
「そういう美優紀は？」
「いないよ」
「ふーん」
「なに」
「可愛いからモテると思うんだけどなぁ？」
「なっ！？」
本当に人の気も知らないで…。
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作者名：ハル | 作成日時：2017年1月2日 19時
