出場 ページ39
手当ても終わった後、自室に戻ったAは気づいたら寝てしまっていた。
疲れもあったのだろう、かなり時間が経っていた。
談話室のような役割をもつ、一階に降りると何やら騒がしかった。
Aに気づいた佐久間が興奮を隠せない様子で話しかけてくる。
「A！どこに行ったのかと思ったら、寝てたのか！もったいないな！凄かったんだぞ！永世と雷門の試合！」
「そうなのか」
あまり聞きたくなかった話題だが、気になるのは事実。
話を聞く事にした。
「そこでキャプテンの基山タツヤが､､､！」
「うんうん」
流石は本戦、かなり白熱した試合だったようだ。
見ていなかったとはいえ、選手等は大体把握しており、説明を聞くだけである程度は理解することが出来た。
だが、佐久間の口からは、ヒロトの名前は出ない。
出なかったんだろうな、と思っていると佐久間がふとその名前を出す。
「そしたらな！そこに吉良ヒロトが投入されたんだ！」
「…吉良が？」
思わずといったように聞き返すと佐久間はきょとんとした顔で頷いた。
「あぁ。そこから基山タツヤと吉良ヒロトのコンビネーションが凄かったんだ！２年とは思えないくらい！」
「…そうか」
自分の怒りが届いたのかは分からなかったが、ヒロトは確かに向き合い、変わったのだ。
そう思うと、何とも言えない不思議な気持ちになる。
すると、風丸が顔を強張らせて近寄ってくる。
「…Aはその、吉良ヒロトが好きなのか？」
「…？何故そうなる」
風丸は気まずそうに目を泳がせる。
「吉良ヒロトの名前が出た瞬間、笑顔になったから。ほら、Aってあんまり笑わないだろ。だから…」
「吉良とは面識があったからな。家の関係でだ。特に親密な関係ではない」
嘘はついていない。微妙に違う部分もあるが、嘘ではない。
風丸はホッとしたように顔を緩める。
佐久間は複雑そうな顔で風丸を見ている。
Aは風丸に言われて初めて、自分が笑っていることを知った。
表情を上手くコントロール出来ないのは珍しい事で少し恥ずかしかった。
それよりも、Aの中には別の気持ちがあった。
「…私も向き合わなければな」
「ん？何か言ったか？」
佐久間がこちらを見る。
Aは笑って言った。
「いや、そろそろ家に帰ろうかと思っただけだ」
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作者名：むめい | 作成日時：2023年2月23日 11時
