シグナルソング練習2 ページ10
どうやら私はケイタの中でちょっと変な人だと思われていはみたいだ。
不服である。
暖房のいまいち効いていない通路を抜けて、私達練習生は新たな部屋にたどり着いた。
床や舞台の様子が、なんだか学校の体育館を思い出させるような場所だった。ここでドッチボールを始めても何の違和感も無いんじゃないか。
「あ!あれ練習着じゃない?」
誰かの声に、懐かしさから急に現実に呼び戻された気がした。
前方にひしめく何十人もの頭の間から、複数のTシャツのようなものが陳列されているのが微かに見ることができた。
グループ、レベル別に整列し0スターから取りに来るようにスタッフが呼びかける。皆行儀良くスタッフの指示に従い、自分の番になってから練習着へと駆け寄っていった。
既に練習着を手にした参加者たちは嬉々として顔の前に掲げたり、ステージ衣装の上から被ったりしている。この瞬間は、肩に縫い付けられた星の数なんて関係ないようだ。
2スターに続いて私たちのレベルが呼ばれ、周りの参加者に続いて前方へと進む。
前方の人混みが少しはけると、私もこれから苦楽を共にするであろう練習着を手に取ることができた。3スターの練習着は、目が眩むほど鮮やかなオレンジ色だった。
「オレンジかぁ」
「この色、嫌なの?」
「嫌いじゃないけど、僕クールトーンだから青とか白のほうが似合うんだよね...ん?」
独り言のつもりで落とした呟きに返答があり、思わずとぼけた声が出てしまった。驚いて右隣に立っていた人物を見やると、何でもないように言葉を続けた。
「Aは、どんな色も似合いそうだけど」
「ソンハンビン練習生...」
まるで先程まで私たちを厳しく評価していたマスター達のような呼称が口を出て、目の前の彼は困ったように笑う。
「何その呼び方、ハンビンでいいよ。同い年なんだし」
「えっそうなの、ていうかなんで」
「さっきマシューに聞いたんだ、ね」
ソンハンビン...ではなくハンビンが自らの後ろを見遣ると、完全に彼の背中に隠れていたマシューが顔を出してきた。
思わず責めるような視線を向けてしまうが、「生まれ年くらい知っててもおかしくないでしょ」と(目つきで)言い返されたので、それもそうかと一人納得した。
「ステージすごく素敵だった、歌も踊りもできるなんてAはオールラウンダーだね」
「それはあなたでしょ」なんて言い返そうと思ったが、彼の笑顔が眩しくて、小さくお礼を言うことしかできなかった。
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作者名:すいみ | 作成日時:2023年3月12日 3時