Please (not) Pick Me (ページ8)

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スターレベルテスト7 ページ8

Aが自分のステージに選んだのは、BTSの「小さなものたちのための詩(Boy With Luv)」だった。

この曲を選んだのは、『声が周りの女子に比べて低いとはいえ、そこまで音域の低い歌は歌えないから』という消極的な理由だったが、包み込むような愛に溢れたこの歌は彼女にピッタリだった。

彼女が趣味で続けていたダンスは、本格的な練習は数年ぶりだったみたいだけど、持ち前の体幹とリズム感で軽やかに身体を使いこなしていた。

歌なんて、オーディションのために初めてレッスンを受けたというのに、音程を外すことなく踊りながらでも伸びやかな歌声を響かせた。ちなみにセンスがないから歌えないかもと言っていたラップパートはカットしたらしい。

そして何より歌が始まった瞬間、先程までの気迫を感じるほどの真顔から、花を咲かせたような明るい微笑みへと表情を変貌させたことは、ここにいる練習生を驚かすには十分だったようだ。

この瞬間、この歌は彼女のためのものだった。
そう感じざるを得ないほどの完成度だった。

「(ほんっとに、Aってずるいなぁ)」

彼女がステージを終え空間が拍手に包まれる中、マシューはひとりごちた。

彼女は昔からそうだった。
要領がいいのか何をやらせても習得が早く、ダンスだけじゃなくて勉強や楽器も、なんでも熟せる人だった。

カナダで同じダンススクールに通っていた時はいつもインストラクターに褒められていたし、振りが分からなくなった時にはすぐ駆け寄って教えてくれた。
同じスクールではなかったが彼女の双子の兄も似たタイプらしく、この才能は家系なのかもしれない。

自分の出来ないことを飄々とこなす、そんな彼女のことを少し憎たらしく感じたこともあったけど、「マシュー、どうしたの？怖い顔しちゃって」なんて笑いながら話しかけてくるから、毎回毒気を抜かれてしまったのだ。

幼い頃の憧憬なんかでは収まらないくらい、マシューはAを尊敬していた。

大きな拍手を受けお辞儀をする彼女は、肩の荷が降りたのかステージ前と比べて目つきも穏やかになっている。

「Aヒョンかっこいいー！」という声援がGグループから聴こえ(探索戦の始まる前まで楽しそうに話していた日本人の練習生たちだろう)、Aはそちらに顔を向けて手を振っている。あ、しかもちょっと嬉しそうだ。

なんだかAを取られた気分がして、面白くない。

心の中に芽生えた小さな嫉妬心に、自分自身が驚いた瞬間だった。