Please (not) Pick Me (ページ40)

今日:35 hit、昨日:40 hit、合計:166,607 hit

Interlude -休暇期間-1 ページ40

.

大きめのマスクで顔を覆い、キャップは深めに被って私は見知った路地裏を進む。

何百回と通った道だが、1ヶ月余り帰っていなかったから久しぶりで少し歩みがもたついてしまう。右手で運ぶ大きなキャリーケースはガラガラと音を立て、時々足にぶつかってくるのが鬱陶しかった。

ここはソウルの中心地から離れた学生街だ。今私は、一人暮らしを始めてからずっと住んでいる1Kのヴィラに向かっていた。

私達練習生は次の課題が言い渡されるまでの間、短い休暇期間に入った。
事務所に所属する子は事務所に戻って休んだり、学生だったら学校に通ったりしてこの短い休暇を過ごしている。韓国の事務所に所属していない子達は、この期間はあの宿舎に残るらしい。

個人練習生という名のただの一般人である私は、一旦家に帰って荷物の整理をすることにした。必要無いと思ったが、念の為に顔が隠れるような格好をし帰路に着いた。キャリーケースと格闘しながら、漸く1ヶ月ぶりの我が家に着くと安堵の溜息が漏れる。

玄関から短い廊下を抜けて、5坪程の狭い部屋に荷物を下ろす。荷解きをする前に手を洗おうと立ち上がった時だった。

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴り、私は驚きで小さく肩を揺らした。

平日の昼過ぎに私を訪ねてくる人に思い当たる人物がいない。この部屋の大家さんだろうか、家賃は滞納してない筈なんだけど。

恐る恐るインターホンで相手を確認すると、すぐさま玄関に戻りドアを開けた。

『マシュー！なんで来たの』

『Aアンニョン、とりあえず中入れて』

マスクで顔の半分が隠れていたが、インターホンに映った人物を見て訪問者はマシューだとすぐに分かった。理由と問う前に私はすぐ彼を家に入れた。
万が一彼のファンが近くにいたら面倒なことが起きるであろうことは想像に容易いから。

『ちょっと...どうしていきなり、どうやって来たの？』

『マネージャーヒョンに近くまで送ってもらったの、入ってもいい？』

『玄関に入れてるのにもう追い返せないでしょ、入っていいよ』

私の了解を得るとマシューは人好きのする笑顔で『お邪魔しまーす』と言い、ずかずかと廊下を進むとキッチンの洗面台で手を洗ってから部屋に入る。
この家には何度も来ているから、勝手は分かっているのだ。

部屋の中央に置かれたラグの上に座り込んだ彼に、再び訪問の理由を問うた。