Please (not) Pick Me (ページ35)

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シグナルソングテスト8 ページ35

規則正しい寝息をたてて、眠りに落ちていったAをマシューは複雑な気持ちで見つめていた。

「(一応異性の前なのにここまで無防備になれるって、何？)」

寝ろと言ったのは自分だが、それにすんなり従われてしまうとそれはそれで嫌だった。

全面的に信頼されているであろうことはひしひしと感じるが、それに関してマシューは両手を上げて喜べることでなかった。
きっと彼女の中で自分は、幼少期から変わらないずっと"可愛い弟のマシュー"なのだろう。

お互いがカナダにいる間はそれで良かった。幼い頃からの良き友人として仲を保っていたから。

しかしAが韓国へと去ってしまい簡単に顔を合わせることが出来なくなってから、彼女に強く焦がれる気持ちを抱きながらもその感情に違和感を覚えていた。
そして自分も韓国へと飛び数年ぶりに再会した時、その違和感の正体に気がついてしまった。

彼女に焦がれる気持ちは単なる友人に向けるものではないことに。

あの時、以前よりも大人になった落ち着きと共にどこか諦めた目をしている彼女を見て、自分が彼女を守らなければいけないと心に決めたのだった。
それでないと彼女は今にも消えてしまいそうな脆さを持っていたから。

練習生になってから合間を縫って彼女に会いに行っていたのは、その決心が理由だった。

「(そんなこと、Aは知らないだろうけど)」

マシューは初め、彼女がこの合宿に参加することに猛反対していた。こうなってしまった事情はうっすらとしか知らないが、理由がなにであれ彼女がこのオーディションに参加することで更なる心の負担を与えたくなかった。

それに、彼女はとても人に懐かれやすい人物である。
これは完全に自分のエゴだが、彼女に自分以上に気にかける"弟"が出来てしまうのが嫌でたまらなかった。
当初は自覚したこの小さな嫉妬心を無視しようと思っていたが、最近やけにずっと一緒にいるユジンを見ていると、自分の嫉妬心が無視できないくらい大きくなっていることを自覚した。

幼稚だと自分でも思うが、食堂であのような態度をとってしまったのも自分の醜い感情が原因だった。

Aを思う気持ちが、ただの恋愛感情だとは思わない。

自分だけのものになってほしい訳ではないし、彼女が幸せでいてくれたらそれでいいのだ。

それでも人の気を知らず呑気に眠りこけている彼女を見ていたら憎たらしくなってきて、マシューは彼女の柔らかい頬にそっと唇を寄せた。