シグナルソングテスト5 ページ32
これまでハンビンと対峙していた時は言葉を素直に紡げなかった私は、今日は自分の感情をすんなりと表現することができた。
「僕、初めてあの曲を聴いた時、ハンビンのことが真っ先に思い浮かんだんだ。だから、ハンビンがセンターに立ってる姿見るのがすごい楽しみだよ。キリングパートおめでとう」
言ってる途中から恥ずかしくなり、言い終わるや否や私はユジンの部屋へ駆け出した。
だから、この時ハンビンがどんな顔をしていたのか、知る由もなかったのだ。
_________________________________________
「ユジナー、いるー？」
ハンビンに伝えられた部屋の前に着き、ノックをしながら呼びかける。数秒してからドアが開くと、薄く照明の付いた部屋からユジンが出てきた。
「Aヒョン...」
「ごめん、もしかして寝ようとしてた？」
「ううん、今シャワーから上がったところ」
そう言うユジンの髪からは水滴が滴り落ちていた。
「入る？」
「いや、ここでも大丈夫だけど」
「今ヒョン達いないから入って」
自分から聞いた割に、私には選択肢を与えないらしい。部屋の前に突っ立っていた私の手を少し強引に引き、私はユジン達の部屋に足を踏み入れた。
「部屋...狭いね...」
「そりゃヒョンからすればどこの部屋も狭いでしょ」
「そうだね、もう僕次から相部屋耐えられないかも」
舐めたことを言うとユジンは少し笑ってくれた。笑顔が見れて少し安堵する。そしてそのまま、彼に会いに来た目的を果たそうとした。
「ユジナ、お疲れ様。よくがんばったね」
「...止めてよ、全然できなかった。せっかくヒョンに教えてもらったのに」
ぽつぽつと言葉を絞り出す彼は、眉間に皺を寄せ涙を堪えているようだった。
私の言葉なんかが慰めになるとは思わないが、どうしても言いたいことがあった。彼が自信を失くしてしまわないで欲しかったから。
「僕は結果が全てだとは思わない。新しい評価は今日の一瞬を切り取ったもので、あなたが限界まで努力したことは無かったことにはならない。だから自信を持って。ユジナは素晴らしい子だよ、次はもっと上にあがろうね」
私が言葉を紡ぎ終わると、ユジンの大きな瞳から次々と涙が零れ落ちた。
私が両手を広げると、ユジンは私に飛びつき強く抱きしめた。左肩が彼の涙か髪の水滴によって湿っていくのを感じる。だがそんなことはどうでもよく、私は彼が落ち着くまでそっと背中を摩り続けた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 510人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：すいみ | 作成日時：2023年3月12日 3時
