シグナルソング練習14 ページ22
無事探し物を見つけイヤホンを片手に部屋を出ると、どこからか音楽が聞こえる気がした。
不思議に思い左右を見回すと、二つ隣の練習室から光が漏れている。
「(もしかして...)」
先程の光景を思い出しそちらの練習室は駆け寄ると、確かに人のいる気配がした。一応2回ノックをし、ドアを開けた。
「わっ、びっくりした...」
数時間前に見た光景と同じだ。
部屋の真ん中で一人きり練習をしていたのは先ほどと同じ少年、ハンユジンだった。
「はじめまして、パク・Aです」
「知ってます。ハンユジンです」
面識も無いのにいきなり練習中にお邪魔したことが急に気まずくなり、とりあえず自己紹介をしてみると、彼も私に続いて名乗った。だがそれが終わると次に紡ぐ言葉が出てこない。話すことを考えてから扉を開けるべきだった。
お互いに次の言葉に困り、タブレットから聞こえるシグナルソングだけがこの空間に響いていた。
「えっと、いきなりごめん、まだ練習室が明るくて気になっちゃったから。あの後ずっと練習してたの？」
「そうです、上手く踊れないのでまだ寝る気にならなくて」
幼そうに見えるが、大した根性の持ち主だ。時刻は既に2時を回っていた。顔から疲れが感じられるが、まだ練習を止めるつもりはなさそうだった。
「まだ帰らない？」
「あと1時間くらいやろうかなって」
「そうか...じゃあ僕も一緒に練習してもいい？」
「いいんですか！？Aさんスターレベルテストの時とても上手だったから、練習一緒にしたいです」
この曲に関しては私も叱られた側なんだよな、ということは告げずに、私は練習室の扉を閉め彼に駆け寄る。
「今どこやってる？」
「ここのダンスブレイクのところです。リズムがちゃんと掴めなくて」
「じゃあそこまで通しでやって見ようか、タブレット借りるね」
床に置かれていたタブレットから流れていた曲を巻き戻し、定位置についたユジンを確認して再生した。私も急いでユジンの隣にしゃがみ、最初のポーズをとる。
今日文字通り潰れるほど繰り返しただけあって、曲に合わせて手足が勝手に動くほど振り付けが身体に染み付いていた。
自身も踊りながら、ユジンの動きを確認する。確かに少しずつ惜しいところもあるが、踊り方にとてもセンスがある。
そういえばスターレベルテストで、ダンスを始めて1年程と言っていたのはこの子だった気がする。
才能が溢れる子なのに、自信を無くした様子が心苦しかった。
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作者名：すいみ | 作成日時：2023年3月12日 3時
