Please (not) Pick Me (ページ13)

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シグナルソング練習5 ページ13

『昨日どこにいたの？』

マシューに英語で問いかけられる。また同じ質問だ。

フロア毎にKグループとGグループで分けられてるとはいえ、こんなに大勢の人がいる中よく私一人がいないことに気付くものだ。目敏さに感心してしまう。

近くの人がこちらに注目していないのを確認してから、私からも少しマシューに顔を近づけ、声を潜めて私の秘密の宿舎について種明かしをした。

『階段近くに部屋あるのわかる？そこが私の宿舎なの』

『えっ、あれって部屋だったの。倉庫か何かだと思ってた』

『多分皆と部屋の造りはおんなじだよ』

『一人？』

『うん、もちろん』

私が一人部屋であることを告げると、『そうか、よかった』と安心したように言った。もしかしたら心配していてくれたのかもしれない。

『今日見に行ってもいい？』

『だめ、マシュー来たら一人部屋なの周りにバレそう』

『そんなの時間の問題だと思うけど...』

『とりあえずまだ、というか今後もダメ』

彼の言うことは尤もだが、まだ一人の時間を謳歌するつもりなので今のところ人を招き入れる予定はないのだ。そもそも、周囲にお互いが親しい仲であると不都合があるため、彼を部屋に入れるわけにはいかない。

ということで彼の申し入れは認められないのだ。

私が意志を曲げるつもりがないことが分かると、マシューは不服そうな顔をしながらも、潔く諦めて私から顔を離した。そして近くに立っていたリッキー達に話しかけに行く。

昔から変わらないマシューの社交性の高さに舌を巻き、ただその輪に混ざる気のない私はただ会場を見渡していたら、向こう側の3スターの集団に知った顔を見つけた。

「(ソンハンビンだ、ほんとにオーラが凄いな)」

昨日初めて目にした時と同じ爽やかな笑顔を見に纏った彼は、周囲の練習生と談笑しているようだった。

既に完成された非の打ち所がないビジュアルと、優等生のような誠実な立ち振る舞いを兼ね備えた彼は、どうにも同じ空間にいる人間には思えなかった。

お互いにいる場所は僅か10数メートルしか離れていないのに、私の彼の間で一枚のフィルターが空間を分断し、彼が画面の向こう側の存在かのような印象を覚えた。
彼は、私なんかとは住む世界が違うのだろう。

シグナルソングを披露する時、彼がステージの頂点で誰よりも輝いている姿が鮮明に想像できる。

昨日発表されたシグナルソングのタイトルを思い出し、まだ見ぬ初披露の場に想いを馳せた。