シグナルソング練習3 ページ11
ソンハンビンと話していたからか、私は同じレベルの子達に出遅れてしまったらしい。
既に整列し練習着に着替え始めた様子を見て急いで最後尾に向かおうとしたが、最前列に立っていた厳つい風貌の少年が自分の前を譲ってくれた。金髪が驚くほど似合う子だった。
「Aヒョン後ろに行ったら見えないんじゃない?」
果たしてそれは煽りなのか純粋な気遣いなのか。だがまるで作り物かのような大きな瞳からは、揶揄うような意図は感じられない。
それに彼のような長身ばかりに前に立たれては、列の後方に立ってしまうと私の身長では人権が無さそうだった。
「じゃあお言葉に甘えて」
「どうぞ」
「ありがとう、えっと...リッキーっていうの?どこから来たの?」
「ひどいな、俺はヒョンのこと知ってるのに」
「うっ、それはごめん...」
彼の言葉に申し訳なく感じ、目を伏せた。
確かにあっちは名前も年上であることも知ってくれていたのに、私ってば失礼を働いたのかも。
「なんてね、俺が勝手に覚えてただけだから」
「ごめん、僕ただでさえ同年代の人と関わること殆ど無かったから、こんなに沢山の子まだ覚えられなくて」
引きこもりがバレるような発言がつい口を衝いて出たが、リッキーは茶化さずに首肯してくれた。
派手な見た目に依らず、思慮深そうな少年のようだ。
それからリッキーと言葉を交わしていると、マスターたちがこの部屋に入って来て、場が再び賑わいを見せた。
数十分ぶりに再会したマスターらは、私たちに次のミッションを告げた。私たち練習生は、次のミッションのシグナルソングテストで新たな評価を言い渡されるらしい。
周囲では評価し直されることに残念がる声や、はたまたより良い評価を狙おうと意気込む声が聞こえた。
シグナルソングのステージの説明を行い、遂にボーカルマスターが課題曲を公開する素振りを見せたが、もちろんGグループは初公開の場に参加させてはもらえず、残念ながら退室を強いられてしまった。
追い出された練習生達は、名残惜しそうに課題曲が披露されているであろう扉の向こうを眺めた。
ぴったりと閉じられた扉に耳をあて、「聴こえるかも!」と言っている子もいる。なわけあるかい
「(난 빛나(私は輝く)、かぁ)」
先程発表されたシグナルソングの曲名を復唱してみる。
ずっと暗闇の中で生きていくのだと思っていた。
そんな私に訪れたこの機会は、私のこれからの人生の中で唯一光を浴びれる場所なのかもしれない。
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作者名:すいみ | 作成日時:2023年3月12日 3時