■6(大倉side) ページ6
確かに今回ばかりは彼女が気の毒だったかもしれない。
けれど、ここで素直に謝れる程、この感情は単純なものではなかった。
俺は彼女の視線に合わせて少し屈むと、その額を親指の腹でさらりと撫でる。
キョトンとした彼女の無垢な瞳が、こちらを向いた。
「───じゃあ、もっと分かるようになるまで、俺の事知ってや」
『え･･･？』
「もっと、俺に興味持って？」
マルだけじゃなくて───。
『大倉、さん･･･？』
彼女の瞳に映った己の姿に、現実に引き戻される。
意識的にした瞬きで視線を逸し、俺は彼女から離れた。
「なんか喉乾いたわ。アイスコーヒーなかったっけ？」
それから、そんな他愛も無い話でこの場の空気を誤魔化そうとする。
そして、玄関脇に置いていた荷物を再び引っ掴んで、彼女の隣を通り過ぎると、後ろからTシャツの裾をそっと掴まれた。
他の誰でもない、彼女に。
「ん？なに？」
振り向けば、俯いた彼女が耳まで赤く火照らせていた。
『あの、それじゃあ───大倉さんは、気圧の変化が原因でとか、新月の日に体調が優れなくなる事とかって、ありますか？』
───それって結局、
「ないよ。俺は」
マルの事やん。
「何でそんな事聞くん？」
『あ、いえ。そういう方もいらっしゃると最近知って･･･。そういう時は、どうするのが良いのかなって･･･』
えへへ、と笑って誤魔化すその表情が、なんだか憎らしくなる。
腹の底からふつふつと湧き続けるモヤモヤを、俺は奥歯をギリリと鳴らし、無理やり飲み込んだ。
何で俺が、こんな気持ちにならなアカンねん───。
＊＊＊
「ただいま･･･」
予定よりも早く家に帰ると、リビングルームの明かりが点いていた。
多分、Aがもう帰ってきているのだろう。
その証拠に、玄関を入ってすぐの所にある彼女の部屋からは、明かりが漏れていた。
何かを探しているのか、室内からはガサゴソと漁るような物音が聞こえ、俺が帰宅した事にも気付いていないようである。
俺はそのまま彼女の部屋の前を通り過ぎ、リビングへ向かった。
そして荷物を自室に置いてくると、すぐに洗面所へと移動する。
それからふと、風呂場から感じた温かい空気と蒸気の湿っぽさに、俺は浴室の中を覗き込んだ。
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匿名希望 - 更新ありがとうございます！めちゃくちゃ好きです！ (2022年10月11日 1時) (
レス) @page27 id: cc9a8b8ec1 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 更新ありがとうございます！続きがたのしみです◎ (2022年4月5日 4時) (レス) @page4 id: d8f1726f33 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：めめこ | 作成日時：2022年4月3日 17時
