【Fate/Grand Order】人は、何を想い、何を願うのだろうかⅠ【派生作品】 (ページ41)

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帰宅の途に着き、ベッドに横になったのはつい先程。
なに１つ食物は喉を通さず、胃に残るこの不快感はきっと空腹によるものではない。

このまま寝てしまえば少しは気が晴れるだろうと瞳を閉じるも、投げられた問が幾重にも重なって木霊す。

何度消そうとしても消えない。あの紅の瞳は逃げることを許さない。
当人にそのつもりがなかったとしても、迷いのある時分と迷いのない奴とではそれは雲泥の差で。
どうしたって敵わない。

もう投げ出してしまおうか。
一層、すべて捨ててしまえば楽になる。役目を放棄し、すべての重荷をここへ降ろしてしまえばいい。誰が自分を責められる。誰も責める資格などないだろう。

そう高を括り、寝返りを打てば目前の翡翠はそれを許さない。
そう言わんばかりの視線をこちらへと投げ、奥底を見据えてくる。

「いくら霊体化できないからってじっと見つめるな。居心地が悪い」

「聡太。私は貴方と対話をしたいのです。会って間もない私に打ち明けられないことは理解しています。ですからこれは私のエゴだと思ってくださって構いません。ですから、どうか。私の話しを聞いていただけませんか」

背筋を伸ばし、姿勢を正し見据えるその瞳はきっと本質を見極めてくれるだろう。
きっと、間桐聡太という人間を正しく見つめようと努力してくれるだろう。

「セイバー。僕は…立派な魔術師になりたかったんだ。だけど、それを望むばかりで僕にはその素質も適性もない。僕には勇気がないんだ。切り捨てる覚悟が…今回だってお前に人質を取らせてみたはいいものの、そのことに僕が一番納得していないんだ。人質を取ったところで命を奪う覚悟さえできないんだ…」

一言こぼせばそれはまるでぽつりぽつりと雨が降り出すかのように落つる。
こんなみっともない姿を見せるつもりはなかった。それでも、思わず吐きだしてしまったのはきっと、もう限界だったから。気づいてほしかったから。

「聡太、聞いてください。私は貴方が勇気のない者だと思ったことなど一度だってない。その感情が捨てられないのは当然のこと。無理に捨てようとすれば壊れてしまう。なぜなら、」

「何を言って…」

"それを人は『優しさ』と呼ぶのだから"

その時、少年は初めて英霊を見据えた。
視界がはっきりとせずとも、しっかりとその心は通じたのだと思う。