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「ねえ、柳。」
「どうした、精市。」
いつもよりドジをカマすAを見兼ね、ついに柳に声をかけてしまった。ジャッカルから聞いた話によると、Aはドジを直すために柳にアドバイスをもらってからずっとああらしいのだが。
「Aになんてアドバイスしたの?」
「ああ、そのことか。常に先のことを考えろ、と伝えたが…」
「………は!?」
柳のアドバイスはもっとも…ごもっともなのだが、先のことを考えて行動するなんてあの子にはまだ難しい。それをサポートするために俺がいる。
__そう、思っていたのに。
「Aにはまだ早いよ。今のことで手一杯なんだ。先のことを考えるなんて、あの子にとっては難しいことだから。」
「ふむ…相変わらず過保護だな。子離れする気はないのか?」
細められている彼の鋭い瞳が俺を射抜く。子離れ、という単語に少なからず俺は寂しさを感じた。
俺はAの親じゃない。当たり前のことだけど、産まれたときからずっとそばにいるあの子を、俺は家族みたいに思っている。
それに、あの子には俺がいなくちゃいけないから。
気持ちを切り替え、「そろそろ再開しよう」と柳に告げて俺はテニスコートに向かった。
「……俺には何も言ってくれなかったね。」
常日頃からデータを収集している柳に聞くのは妥当だろうけど、俺に何も相談してくれなかったことにもまた、寂しさを感じた。
それを悟られないように微笑を浮かべると、同じタイミングでコートに入った赤也が頬を引きつらせているのが見えた。
(ふふ…赤也、相手をしてくれるかい?)
(ぶ、部長…目が笑ってないッスよ…)
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作者名:海道蓮 | 作成日時:2019年5月5日 11時