OUR HOME (緑)

2. ページ2

.



"地元物件に強い！"

"真心込めてお部屋探しのお手伝い！"

"愛されて30年、信頼と実績の村上不動産！！"



村上不動産の窓に貼られた手書きのPOPは
文字が色あせてセロハンテープもパリパリに
乾いて今にも落ちそうで何とも頼りなさげだけど



今の私にはここしか頼る場所がない。



信ちゃんの呆れた顔を思い浮かべると
気が重いけど意を決して引き戸を開けると



｢どんなんお探しですか！｣



いつもの威勢のいい声は聞こえなくて
それどころかいつもの席にもいなくて



｢……誰ぇ？｣



お客様用のソファに寝転がっていた人が
ドアを開けた物音で目を覚ましたのか
のっそりと起き上がってこっちを見た。



｢あの、信ちゃ……村上社長は｣

｢何か用があるって出かけた｣

｢いつ頃お戻りになりますか？｣

｢さぁ？そんなん聞いてへん｣



寝ぐせのついたボサボサの髪のまま
お客様用のおせんべいに手を伸ばしたその人は



｢もしかしてお客さん？｣



右手におせんべいを持ったまま
左手で持ったマンガ雑誌で私のスーツケースを指す。


｢ええ、まぁ｣

｢こんな変な季節に？｣

｢…………｣

｢何かワケありとか？｣



パキっとおせんべいを噛み砕きながら
またソファに寝転がったその人は



もう私のことなんて見ずに
マンガ雑誌に夢中になったかと思えば



｢彼氏に浮気されたとか、｣

｢え、｣

｢部屋を追い出されたとか、そんな感じ？｣



おねーさん幸薄そうやもんなぁ、って
こういう顔してるで、って



読んでいたマンガ雑誌の1ページを私に突きつけて
振られて泣いてる女の人の絵を指さした。

3.→←1.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す