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その手から抜け出すことも
その手を握り返すことも出来ず
「僕が村上くんに敵うなんて思わへんけど」
その優しさに私が何も答えられないのを
分かっているかのように
「……僕は、ここにおるよ」
丸山さんは小さな声で言った。
涙が溢れてしまわないように目を閉じて
わざと寝返って丸山さんに背を向けると
するりと手が離れていくのが分かる。
目を閉じて眠るたびに
信ちゃんに会えたらいいのに
好き、なんて言葉はいらないから
サプライズのプレゼントもいらないから
信ちゃんに会わせて下さいって願っても
"ここにいる"
ただそれだけのことが、叶わない。
「また来るから」
背中で丸山さんの優しい声がして
足音が遠ざかってドアが開いてまた閉まって
病室の外でお母さんと挨拶をする声が聞こえる。
「信ちゃん」
ひとりになった病室で目を開けて
柔らかく揺れるカーテンの向こうに声を掛けると
「……まだ、好きでいてもいい?」
腕時計の文字盤が反射して私に向かって
何かを伝えたがってるみたいにキラキラと光った。
fin
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おふ - 丸の話の長編ってありますか?? (2019年12月20日 22時) (レス) id: 42669487d6 (このIDを非表示/違反報告)
なっちゃん(プロフ) - 村上くんのファンとして、とても大好きな作品の一つです。久しぶりのお話の更新、とても嬉しかったです、ありがとうございます!切ないですが、一つ一つの言葉がとても綺麗で…何回読んでも泣いてしまいます笑笑またいつか、お話が更新されるのを待っています!! (2019年12月14日 3時) (レス) id: 75cb21f7f0 (このIDを非表示/違反報告)
蒼乃碧(プロフ) - 素敵なお話の数々をありがとうございました!青さんのお話がやはり好きです。青さんらしくて。天国に行った信ちゃんとその彼女さんと丸山さんのお話、まだまだ続くのかなぁって思ったけど…終わりなんですね。まだまだ読みたいって思いましたが…残念。 (2019年12月11日 1時) (レス) id: b2e7866667 (このIDを非表示/違反報告)
nokko(プロフ) - 信ちゃんのお話、とっても切なかったのですが、心温まるハートフルな話でとても感動しました。マルちゃんの優しさにも心打たれました。あきらさんの描く、少し儚いお話が大好きです、!これからもひっそりと楽しませていただきます…(笑) (2019年5月2日 15時) (レス) id: 079b72fef4 (このIDを非表示/違反報告)
あきら(プロフ) - ゆんゆさん» 残酷・・・のつもりはなかったんですけどね(^^;; 空から恋人を見守る人、恋人を忘れずにいる人、その全てを知った上で恋をする人。その想いの全てに間違いも正解もないけれど、叶わない想いもまた【恋】なのだと思います。 (2017年11月6日 21時) (レス) id: e9c7617437 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あきら | 作成日時:2016年4月30日 18時