05.佐藤寛太という人 ページ6
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「俺ね、小さい頃から、あんまり何に対しても執着しない子だったんですよ。
人との関係に波風を立てたくないっていうか、
自分が我慢してそれで収まるならそれでいいって思ってたし、
他人に自分の何かを欲しいって言われたらすぐ譲った。
でもある日、それが間違ってるよって言われたんですよ。
すぐに譲れるものなんて、ほんとに自分が求めていたものでも、欲しかったものでもないんだって。
だからそんなの譲ったって、あげたって、捨てたってなんだっていい。
ただ。」
そこで、いつもカフェで見せるどこか頼りない彼とは別人のような自信満々の顔つきで言った。
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「絶対に譲っちゃいけないものは絶対にある。
それは人によって違うけど、何があっても譲れないもの。
それを持ってる人間はとっても強い。
何があってもそのために頑張れるから。
辛いことがあってもそれを支えにまた立ち上がれるから。」
まあこれ、俺が言われた言葉、丸パクリしただけなんだけど。
と言っていたずらっ子のように笑った。
私に難しく考えなくていいんだよと諭すように。
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私は単純に気になった疑問を彼にぶつけた。
「あ、あの。
貴方は見つけたんですか?絶対に譲れないもの。」
彼はフッと笑って、
そういえば名前もお互い知らないままだった。と言って答えた。
「あ、僕、カンタっていいます。
佐藤寛太。
僕はその間違ってるよって言ってきたお節介なやつと共有して持ってます。譲れないもの。」
「......カンタさん。
私はA Aです。
そうなんですね。
いいな、誇れるものがあるの羨ましい。」
思わず、心の声が漏れる。
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すると彼は優しく微笑んでこう言った。
「いや、僕に負けないくらいAさんもずっといいもの持ってるじゃないですか。」
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作者名:michi | 作成日時:2019年1月8日 2時