その男、問題児なり (ページ45)

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流石やな。山本の呟きは誰にも聞こえることはなかった。2人の打者を空振り三振に抑えツーアウト、次の打者はヒットを許すがサードゴロで打ち取った如月。持ち前のストレートやフォークも調子が良い。

まるで先ほどの3ランなんて無かったかのような淡々としたピッチング。如月のメンタルの強さに助けられ、少しずつだがベンチの空気も戻っていく。

ベンチへ戻る如月を大谷たちが迎え入れた。申し訳なさそうな顔でハイタッチを待つ佐々木を見て、如月は思わず吹き出した。佐々木は如月の笑った理由など知るはずもなく、おどおどする。その姿が余計に面白おかしく見えてしまい、如月はふっと笑いながら佐々木の肩を優しく叩いた。

「よく3点で抑えたね」

嫌味でも皮肉でも何でもない。如月の心の底からの言葉だった。作り笑顔でもない本当の笑顔。それを見て佐々木の涙腺が大きく揺れた。

佐々木「っAさ、」

「泣くなよこんなところで。勝敗がついてからね」

佐々木「はい…！」

まだ落ち込んでいる佐々木だが、如月の言葉で解放されたのは確かだった。

無失点で抑えた日本だが点は入らず。岡本の当たりの良い打球に、一同はホームランかと期待したが、無情にもアロザレーナにキャッチされてしまう。

その後も如月は三人で抑え、日本は満塁のチャンスが訪れたが得点にはならなかった。ここで如月に代わって山本が登板する事が決まる。

山本「荷が重いなぁ…」

「いけるだろ、由伸なら」

山本「生憎如月さん並みのメンタルは持ち合わせてないんですけどね。でも投げ切りますよ俺は」

「ん、その勢いでいきな」

山本「じゃないと言われちゃいますもんね。十分戦える素質があるのに自信がないって」

「…せやなぁ」

7回、如月に代わり登板した山本。佐々木から3ランを放った6番バッターを打ち取ったが、次の打者にファウルで粘られた末に変化球が外れフォアボール。8番打者は打ち取るものの、一塁ランナーは盗塁を狙った。キャッチャーの甲斐が二塁に送球するが、判定はセーフだった。

「…アウトやろ」

心の中で呟いたつもりだったが声は漏れていたようだ。如月の言葉が聞こえていた訳ではないが、栗山監督はリプレイ検証を要求する。源田のタッチが認められ、判定はアウトとなった。