その男、問題児なり (ページ21)

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大谷「＿＿緊張してる？」

「いえ、全く」

ツンとした態度を取る如月はいつもと変わらない。しかし大谷の目にはしっかりと変化は映っていた。自分は活躍しないと明言していたが、結果的に今先発を務める事になっている。代打だ、切り札だと言っておきながら素直に従う如月が、大谷は可愛くて堪らなかった。

大谷「Aって意外と律儀だよね」

「……どういう意味ですか」

大谷「え〜？口ではイヤイヤ言いながら真面目に監督の言葉聞くところとか」

「うっざ…」

思わず心の声が漏れる如月に大谷は笑いが込み上がる。やっぱり辞退をするべきだったと心にも無い事を考えながら如月は大谷の前を去った。

中野「A、頑張れよ」

「おん。無失点で抑えるわ」

中野(まじで抑えるから凄いんだよな…)

宣言通り如月は打者を空振り三振で抑えていった。2回表、この回も3人で抑え2回裏に入る。ヌートバーはセンターフライ、近藤は空振り三振、そして如月の打席。

妙な緊張感が流れる中、唯一如月だけはいつも通りの表情で打席に立っていた。初球を打つがそれはファウルとなる。そして2球目、それは真っ直ぐ如月の脇腹(・・)へと向かっていった。

如月の目にはそれがスローモーションで映っていた。頭では理解してるのに体は上手く動かない。ボールを避けようと体を捻るが、ボールは脇腹に当たり飛んでいった。

「っ！」

思わず脇腹に手を当て顔を歪める。数秒地面を見つめ息を吸うと、如月はプロテクターを外しながらジロリとピッチャーを見た。睨んだ訳ではない、如月特有の三白眼で見ただけだったが、相手ピッチャーは顔を強張らせていた。

大谷「A！！！」
湯浅「Aさん！」
中野「………！」
山本「大丈夫なんか…？」
源田「こっからだとあんまり見えなかったけど、もろに当たった？」
吉田「多分……」

(あーいてぇ)

痛みに耐えつつ一塁に辿り着く。一塁を守っていたファーストは、恐る恐る如月に声を掛けた。sorry、とどこか辿々しい英語。チラリと顔を見て如月は口を開いた。

「일부러 아니야(ワザとじゃないよね)？」

まさか如月の口から韓国語が飛んでくるとは思わず固まるファースト。少し経って慌てて首を縦に張った。昔から因縁のある韓国との試合。如月への死球の影響で少し空気がピリついた。