14 ページ16
岡本からそんな言葉が飛び出るとは思えず中野は耳を疑った。牧はともかく、以前まであんなにも如月に対して近寄り難いと呟いていた岡本が言うからこそ驚いているのだ。
魚のように口をパクパクとさせる事が出来ない中野を他所に、如月は岡本の言葉を脳で吟味していた。
「………岡本さんがそんなことを言うなんて、明日は大雨だねぇ」
岡本「いや本心やけど…」
牧「正直に言うと最初は如月さんが怖かったです。でも練習試合とかを通して直接関わってくうちに、如月さんの事が段々分かってきたような気がして、」
「気がしただけでしょ?」
牧「っ……それは」
嫌な空気が流れるのを察知した中野は如月の腕を掴む。如月はそれを振り解くと脱力したように腕を下げて床を見つめた。
「……分かってたまるかよ。俺の事なんか…」
震える声で呟いたその言葉は、会場の熱気と声援に包まれて誰の耳にも入ることはなかった。無言を貫く如月に中野は心配になって肩を揺する。僅かに顔を上げた如月の視線の先には、今まさにスリーアウトを取ってベンチへと戻ってくる大谷の姿があった。
__同じ二刀流、俺の方が凄いって言わせるのが楽しみで仕方ないんだよねぇ
(何が楽しみで仕方ない、だ。大谷さんの事を妬んでるのは何よりも俺自身なのに。あの人を超えられる事は絶対あり得へんのに。口先ばっかり空回りだ)
仲間たちとハイタッチをしながらこちらへと向かってくる大谷。岡本、中野、そして後ろの牧とのハイタッチを終えると、大谷は微笑んで如月の帽子ごと撫で回した。
てっきりハイタッチをされると思っていた如月は、予想外の行動に舌打ちが飛び出そうになった。絶対に大谷のハイタッチを無視してやろう、そんなくだらない事を心に決めていたのに、大谷はことごとくそれを回避する。
大谷「Aの阿呆面レアじゃね?」
「はぁ?人を馬鹿にするのも良い加減にして下さいよ」
大谷「ごめんごめん。どーだった?俺のピッチング」
素晴らしかったです、そんな言葉をぐっと飲み込んで如月は口を開いた。
「まだまだですねぇ」
大谷「ははっ、手厳しいなぁAは」
中野「……」
違う、本当はそんなことを言いたいわけじゃないのに。
(__どこまでも俺は嘘つきだ)
640人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キョンシー(プロフ) - 更新楽しみにしてます! (12月19日 8時) (レス) @page3 id: 84d2022181 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ