7話 ページ8
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どこかキュラソーの纏う雰囲気が柔らかくなった気がする。
「...それで?あなた達の言う継子というものについて...説明してくれる?」
「ああ。まず大前提として、アンタは鬼を知ってるか?」
「鬼?ええ...まあ噂程度に耳にしたことはあるわ。...待って、まさか本当にそれが存在するなんて言わないわよね?」
『存在する。』
Aの静かな声が響く。大声を出したわけでも、威圧の意図があった訳でもないのに、確かに此方をウンと言わせる力強さがあった。
「...鬼」
「まあ、俺も最初は信じられなかったけどな。」
「アイリッシュ...」
「実際に見て見りゃわかる。今晩あたりコイツの任務に着いてったらいいだろ。」
「任務っていうのは...?」
賢いキュラソーが察せない訳では無かった。しかし頭の中で立てた仮説があまりにも非現実的過ぎて、確かめるように聞き返した。
「政府公認鬼狩り組織、鬼殺隊。毎夜人を喰らう悪しき鬼を狩って駆け巡る...刀を持ったポリ公ってとこだ。」
「鬼専門のな」
「...」
なんということだろうか。キュラソーは先程自分が立てた仮説が正しいものだったと理解してしまった。
目の前の人間達は、鬼という人喰いの化け物を相手に毎夜毎夜闘っているのだと。まさかそんな非現実的なものが存在して、ましてや御伽噺の中でしか聞いた事のない鬼退治の職が存在していただなんて。自分が生きてきた組織も相当な地獄であると自負しているが、この者たちの世界はもっと苛烈で恐ろしいものなのだ。
「...それで、さっき言ってた継子というものは弟子の意味であると。つまり、私はこの女の子の元に弟子入りして鬼狩りにならないか、と誘われているわけね?」
「そういうことだ」
「相変わらず理解が早ぇな。」
そこで今まで黙っていた彼女が静かに口を開く。
『別に、命をかけて戦場に出なくてもいい。貴方は今まで沢山頑張ったから...自分の命を優先してほしいと思っている。ただ、私は自分の使用している古の呼吸を途絶えさせたくないから、この呼吸の後継者を探していただけ。』
彼女の言葉に、ぽかんと間抜けに口を開いてしまう。キュラソーは間抜けたまま彼女を見つめた。呼吸を継いで欲しい、云々は置いておいて。
____今まで沢山頑張ったから
____自分の命を優先して欲しいと思っている。
その言葉が、あの夜クレーン車から連れ出された時の言葉のように、ストンと胸に染みて渡ったのである。
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はる - やば、めっちゃ最高…!!ゆっくりでいいので更新待ってます‼ (3月23日 14時) (レス) @page41 id: 41084e4d77 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいしいくじら | 作成日時:2024年3月1日 16時