39話 ページ40
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『あの時貴方が鬼の人質になったのは、本来拐われそうになっていた幼い男児を守るためだったと理解してます。』
「...」
『間抜けじゃない。貴方が勇敢だったからだ。』
引っかかる言葉をサラッと救いあげて訂正しておいた。必要以上に自分を卑下することはないと。その言葉にまた諸伏が眩しそうに目を細め、そして愛おしげに微笑んだ。
「貴方はいつだってそうやってなんて事ないような顔で、沢山の人を救いあげているんですね。」
『そんな大層なことしてませんけど』
「ふふ、自覚が無い所もまた優しさだ。」
『...』
なんだか先程より彼の距離が近い気がする。視線もどこか熱の篭ったものに変わり、Aは既視感のあるそれに目を逸らした。
「逸らさないでください」
『...』
「あなたの顔が見られないのはとても寂しい」
『...』
大人の余裕というものか。妙に色気のあるそれに少しばかり胸が音を立てて、彼女は雰囲気に呑まれそうになっていた。しかし、そんな空気も彼女がピクリと反応して突然足を止めたことによって終わる。諸伏はどうしたのだと彼女を振り返った。
『...私の背後に下がってください。来る。』
ぐっと諸伏を背に隠し、警戒の色を濃くするA。初めはわからなかったが、段々鬼が近づいてきているのだろう。徐々に重たくなっていく空気に、諸伏はああ鬼がいるのだと実感せざるをえなかった。
『...』
「遊ぼウ」
「!?」
突然目の前の足元から聞こえてくる幼い声。バッと視線を下に向けると、片目が抉れかけたまま、妙な糸を引いて目玉をぶら下がらせた幼い子供...鬼の姿があった。
「っ...」
まさにゾッとする程のグロテスク。諸伏はずりっと一足後ずさりしてしまった。
『...』
対する彼女は、冷静な瞳で目の前の鬼を射抜いていた。
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はる - やば、めっちゃ最高…!!ゆっくりでいいので更新待ってます‼ (3月23日 14時) (レス) @page41 id: 41084e4d77 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おいしいくじら | 作成日時:2024年3月1日 16時