君はおちてくれない ２（青）

紅茶 ページ25

Aside



この事務所に来てから1時間半。




『あの…


田村さん。


離していただけますか？』





田村さんの腕の中にいるのに

いたって私は冷静だった。







最初

田村さんへ感じた違和感。



気のせいだろうと思いながら

打ち合わせを進めた。





何を話していても


ずっと私の目を見つめたまま笑顔な田村さん。






この人はそういう人なのかな…



なるべく気にしないように


決まっていくことを手帳に記していった。





『ジャニーズ事務所の方針では

その演出で大丈夫です。よろしくお願いします。』




一通りの話が済んで


ちょうど目の前の壁にかかった時計を見ると


ここに来て1時間が経っていた。




やばい。そろそろ行かなきゃ。


もう打ち上げが半分も終わってしまってる。




手帳をカバンに戻しながら



『それでは、私はこれで…』



そう言ってソファから立ち上がろうとした。




『Aさんは

紅茶とか好き？』




急に大きな声で

私の言葉を遮って話し出す田村さん。



…へ？

紅茶？




『え…あ、はい。


好きです…。』





いきなり何の話？

作り笑顔を貼り付けて答えた。





『ほんと！？じゃあ良かった！


この前、フランスのお土産で紅茶もらったんだ。


飲んでいきなよ！


今入れるから！


ね！？そうしなよ！』





嬉しそうにバタバタと給湯室へ駆け込む田村さんに




『結構です』


なんて言えず



渋々ソファに再び腰を下ろした。



あぁ…

打ち上げ行くの遅くなるな。


みんな楽しんでるかな。



私も一緒にその場に居たかったな。



すぐ帰れるなんて思っていた私が甘かった。



これは仕事なんだから

変な対応はできないし…



うん。

しょうがない。




少しでも行けたらラッキー…

って思うことにしよう。


膝の上に手を置いて

打ち上げを楽しんでるであろうみんなの姿を

思い浮かべる。





ふと

ついため息が漏れてしまう。




部屋の奥の給湯室から


カチャカチャとカップの音を鳴らしながら


田村さんが戻って来た。



慌てて笑顔を作って



『すいません。ありがとうございます。』



と頭を下げた。



テーブルに置かれた紅茶の入った透明なポット。



そこからは甘くて芳醇な匂いが

フワフワと香ってくる。



あ、いい匂い。



田村さんが慣れたように

紅茶をカップに注いでいく。





ポットと同じカップに注がれていく紅茶は


とてもキラキラとしていた。

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