ネコみたいな〜瀬口黎弥〜 (ページ8)

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8.伝説の振り付け師ページ8

Aside

父は母と出会った時からギャンブルばかりで、母が父のどこに惹かれたのか、ずっとわからなかった

母は健在の時、大手企業に勤めていて金銭的な困難もなく塾やダンスなどたくさん通わせてくれた。

上京してPGに入ってきた夏輝くんとは、すぐに意気投合し仲良くなった。

ある日、母が入院をした。

私が一緒に居てあげなきゃ、と夏輝くんには何も言わずにダンスを辞めた。

毎日看病をして、毎日必死に泣くのを堪えて笑って話した。

たまに病室に顔を出す父は、金をくれと弱っている母にお金を求めた。

母「…お母さん、もう長くはないから……お母さんが居なくなったらこの通帳を持って、あの人に見つからないところに逃げなさい」

そう言って、大事に隠していた通帳を私に渡した。

その数週間後に母は亡くなった。

なぜだか涙は出なかった。とにかく逃げることに必死だった。

最低限の荷物と、母の通帳を握りしめ家から出た。

安いワンルームのアパートに身を潜め、ちかくのコンビニでバイトも始めた。

1ヶ月が経ったある日、交差点で信号待ちをしていると夏輝くんとばったり会ってしまったのだ。

澤「A！？」

驚いた顔をして、私の腕を掴んでいる夏輝くん。

そのままカフェへ連れていかれた。

澤「お父さん、探してたよ」

「！？私の居場所はあの人に言わないで！！」

つい大きな声で言ってしまい、びっくりする夏輝くん

「…ご、ごめん」

澤「…なんで黙ってダンス辞めたの？」

悲しそうな瞳に嘘は付けなかった。

お父さんの事、お母さんの事、逃げている理由、全て話した。

その時、初めて涙が出た

「…お願いだから、お父さんには言わないで…」

向かい側に座っていた夏輝くんは
私の隣に座り直し、私の手を握った

澤「言わない」

それから夏輝くんは、Aのダンスは凄いのにコンビニ店員は勿体ないよとダンススタジオのインストラクターの仕事を紹介してくれた。

自分のクラスを持ってレッスンさせてもらったりと、徐々に給料も安定し、オートロックのついたマンションに引っ越すことも出来た。

顔は非公開のままマスクとキャップで踊り続けた

ある日、生徒と踊った動画がupされてからSNS上では私のダンスが話題となった

ほっしーという名が広まり

誰も素顔を知らない伝説の振り付け師

というキャッチコピーとしても有名になった。