勇次郎くんの許嫁『染谷勇次郎』

にじゅうに ページ24

「勇次郎さん、生きてますか」


「……病人に対して言う言葉がそれなの」







何その荷物。とこちらを向いた勇次郎さんに目を丸くされた


勇次郎さんの目に飛び込んできた私は食事の乗ったお盆に冷えピタ、タオル、その他諸々たくさん持っている



念には念をの精神で生きているせいかいつも必要以上の準備をしたがるのだ






「不味くは……ないといいんですけど……で、でも中学の頃から料理は学ばされましたので味は保証……しているつもりなんですがね……」


「そんなアバウトにものを言わないでくれるかな……そんな昔からやってるんだったら自信持てば？」






勇次郎さんを見た私の目はどんなに輝いていただろう

自信をもて。たったその一言が嬉しかった





「……ど、どうぞ」

「…………どうも」




勇次郎さんの傍らにお盆を置いてその他諸々もあるべき場所に設置した

勿論おでこにも





「……っ！！つっ……いきなり冷えピタ貼らないでよ！」


「あら、これは大変失礼しました」





すっとぼけてみるが勇次郎さんはどうせ冷えピタが嫌いだろうと思ってさっさと貼ったのだ


わざとであることを口にすれば部屋から叩き出されそう……




知らん顔でお盆の上の小さな土鍋を開けた

ふわりと湯気が空気中に逃げ出し現れたのは






「……雑炊？」

「ねぎと卵と鶏肉の出汁雑炊ですね。どうぞ」




小皿にとりわけレンゲと一緒に渡すとおずおずと受け取られる

雑炊を掬うと猫舌なのかふーふーと念入りに息を吹きかけた後やっと口に運んだ




「……美味しい」

「え！ほ、本当ですか！？」




何度も言わせる気？とジロリと見られた


その後もふーふーしながらちゃんと食べくれている







……次第に目頭が熱くなっていった





「え、ちょ……何泣いてんの」


「……すみません。初めてなんです……誰かに料理して……美味しいって言われたの」







幾度家族に料理を提供しただろう


何日もかかる仕込みの下出来上がった料理も難しい包丁使いで飾り付けた料理も


美味しいって一言はいつまでもその口から聞けないままだった








それなのに、たった10分もかからず簡単に出来た料理で欲しかった言葉は呆気なく貰えた



心の何かが抜けたように涙腺の蓋も抜けてしまったようだ






「……美味しいって。泣かないでよ」


「……っ…ありがとう、ございます」


「君に泣かれるとどうすればいいのか分かんないんだけど」


「どうぞ構わず……」


「いや、それは……なんか違うでしょ」








空になった小皿が静かにお盆に置かれた

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