【文スト】春情

７５話 ページ27

やる事もないのでベンチに座って空を眺めていると、視界に影が差す。
視線を向けると、知らない男性が二人、目の前に立っていた。




｢ねえ、そこの彼女。良かったら俺達と一緒に遊ばない？｣




何ともテンプレートな台詞。

え、もしかしてナンパ？

ナンパなんて人生で初めてだから浮かれる気持ち半分、ウザったい気持ち半分。
二人はニヤニヤと私を値踏みするように見つめている。正直目付きが気持ち悪い。

というか、誰？




｢いや、連れがいるので｣

｢俺らも二人だし丁度いいじゃ〜ん。その子も一緒に遊ぼうぜ｣




やんわり断ろうとしたが逆効果だった。
どうやら私の連れを女の子だと思っているらしい。男だし、むしろお前らより顔がいいハイスペックだぞ！！




｢えっと、その人は男だし、そもそもあなた達と行くつもりないので……｣

｢そんな固いこと言わずにさ〜！｣




ヘラヘラと私の言葉を笑い飛ばす二人。
え、もしかして信じてない？解せぬ。

二人は更に近寄ってきて、タバコの臭いが鼻腔に広がる。そのキツイ臭いで体調が悪化しそうで、少し吐き気を催す。
片方の男の手が私の肩に触れようとする。気持ち悪くてすぐに反応出来なくて、避けられない。

──あ、やばい。吐きそう。

気持ち悪い視線と臭い。まんまと触られる──その時。
パシン！と小気味よい音がして、私の肩に触れる直前で、男の手が止まっていた。




｢汚い手で、Aさんに触れないで頂けますか？｣

｢ドス君……！｣

｢あ？何だ手前……｣




ドス君は、掴んだ男の手を乱暴に払うと、正反対の優しい手つきで私の頬に触れる。他にも腕や足など怪我が無いかどうか全身隈無くチェックしていた。

その優しい笑顔を見ると、先程までの不快感が嘘のように消えて、安堵が胸を満たす。緊張感が解けたのか、目尻からほろりと涙が零れた。
それを見たドス君は瞠目して、ゆっくりと男二人に向き直る。




｢彼女に用があるのなら、ぼくを通してからにしてください｣




少しだけ見えたドス君の瞳は、暗くて深い闇みたいだった。その鋭い眼光に絡め取られて男二人は足がすくんで動けない。重い威圧感。それが向けられていない私すら怖いのだからあの二人は心が折れそうなはず。




｢次はありませんよ｣




その一言と共に、男二人は逃げるように去っていった。
ドス君はすぐに私に向き直り、先程の鋭い瞳とは正反対の優しさと心配が混じった表情で私を見た。

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