─She name is... ページ2
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……−胸に広がる甘い香り。胸焼けがしてしまいそうだ。ふらふらと眩暈もしてきた。だけど、それは僕の好きな香りそのものだった。彼女が僕の胸の中で泣いている。
「マレウス……っ」
「何も見なくていい」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
彼女は床に転がる数々の死体を見ながら、誰に対してかも分からぬ謝罪の言葉を述べた。『ソレ』が自分が『殺したモノ』であることに気づいて、今こうして必死に何かに対して縋っている。なんと憐れな、『悪ノ華』。
「お前が負い目を感じる必要はない。
……このモノ達は、お前を殺そうとしたのだろう?」
その言葉に、震えていたAの肩が一層震えた。綺麗な絹のような髪は血に染っている。それがあの者たちの鮮血だと思うと、どうしても髪を引き千切りたい気持ちに駆られる。
「大丈夫だ。もうお前を狙う者はいない」
「………」
「寝室の準備をさせよう。今日は疲れただろう」
今日は湯浴みをして寝た方が良い、と言えば素直に立ち上がるA。ああ、そうして僕の言うことを聞いている彼女が一番愛らしい。この時だけは、僕が幸福感に満たされる。
「A様!!その血飛沫は……っ」
「セベク」
叫び声にも似た声が城に響いた。外で鍛錬をしていたらしいセベクが戻ってきたのだ。セベクはAのネグリジェに鮮血が飛び散っているのを見て、カッと顔を紅潮させた。彼の怒りの顕れだ。
「すぐに着替えを用意させます、A様」
「シルバー……ありかとう」
「あれは僕が焼却炉に入れ燃やして始末しておきますので、ご心配なさらず、A様!!!!」
「セベクも、ありがとう」
Aはいつも通り完璧で美しい、花のような笑みを浮かべた。あんなことがあった後だと言うのに、よくもこんな風に笑えるものだと僕はよく分からない感心さえ抱く。だが、彼女の綻ぶような笑顔を見ているだけで、そんな感心も疑問も、どうでもよくなった。……−やはり笑顔が一番似合う。
「マレウスも、ありがとう……随分落ち着いたの」
「当然だ」
僕は比較的短い返事をした。いつもこうだった。彼女から歩み寄ってくれても、僕はそれと同じくらいの「愛」を彼女に返すことに恥じらいを覚えている。
「おやすみなさい、マレウス」
「……ああ」
花が綻ぶような笑顔に、随分と恋焦がれているというのに。
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れーんーりー - 更新頑張ってくださいいいい!!!!いつでも何処でもずううとみてます!(←キモチワルイ) (2020年9月27日 6時) (レス) id: cff600fdbd (このIDを非表示/違反報告)
れーんーりー - 最高かよ・・・。応援しておりますね! (2020年9月23日 17時) (レス) id: cff600fdbd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たぴ | 作成日時:2020年9月22日 11時