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「別に無理しろとは言っていない。......ただ」
男の言葉が詰まる。
『......生きろって事ですか？』
「............」
男の一言に、沈黙が流れ始める。
今にも死にそうな男と、こんな状況でも生きれる男。
似ているようで全く似ていない2人は、生きることも死ぬことも選べない。
それならば......それならば。
“目の前で苦しんでいる男を、今からでも殺した方がいいのではないか？”
男は手に汗を握ると、血が滲みに滲んだ服を結び終わる。
『殺すんだったら、最後に......ひとつ......』
応急処置が終わったことに気がついた男は、自分の運命を見透かし笑う。
『──“生きたい”』
ポツリッ。
静かに呟かれたその言葉が、男には重くのしかかる。
『生きて生きて、たくさん楽しいことも苦しいこともしたかった。貴方の名前も......好きな物も、嫌いな物も、何もかも知りたかったし......。友達だけじゃなくて、親友みたいな感じで一緒に生きたかった......』
虚ろな目を空へ向けながら、男は語る。
最期。
その言葉が、男には恐怖でしかなかった。
だからなのか、今頭の中に浮かんだ言葉を1字1句間違えずに言える。
死の間際だから、今からでも生きたいと願える。
男の頭の中に、走馬灯と呼ばれるものがいくつも流れていく。
途方もない記憶が、まるで生きているかのように生き生きとした表情を見せながら、男を死へと誘っていた。
『あと、あと......女の人にもなってみたいなァ』
「女......」
『うん......。男だけだと、飽きちゃうから......あと、貴方にもなってみたい』
ニヘッと笑うと、男は血だらけの手を男に向けて伸ばす。
『貴方は優しくて、とってもカッコイイ......私とは違う』
「............」
『もし、2人で生きていけたら......海に出たい。優しく平和な国で、2人で、生きていきたい』
男の言葉に、男は口をとざす。
願望？違う。
この場合、男の言葉は『遺言』と呼ばれるものだ。
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作者名：ヒロ子 | 作成日時：2019年10月15日 17時
