“嘘つき”は神に祈る Ⅲ (ページ16)

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小さな庭　“リトルガーデン” ページ16

涙が出るほど笑ったことなんてあっただろうか、そう考えるほど過酷な生き方しかしてこなかったクロコダイルは、笑い終わったあとも機嫌をよくして顔を手で覆った。

　自分を不思議そうに見つめるAは間抜けな面をしており、それがまたクロコダイルの笑いのツボをくすぐった。残念ながら二度目の爆笑は起きなかったが、間抜けな男との意外な出会いにクロコダイルは殺す気も起きず、その上断る気も起きなくなったので七武海入りを了承した。

　クロコダイルの敗北で終わったこの戦いは、お喋りなアホウドリが世に公表されるわけでもAが言いふらすわけでもなく、静かにクロコダイルの記憶に眠っている。
　そして、今までの戦いが嘘だったようにクロコダイルが握手を求めてきたのだから、Aは間抜けな面をしたことだろう。あれは見ものだったとクロコダイルはもう一度振り返った。

　勿論、Aの拳を浴びながら七武海に入ったときのメリットも考えていたクロコダイルは、一眼にAがお眼鏡にかなったからという理由で加入したわけでもない。
　現状、アラバスタ王国を乗っ取ろうと企んでおり、その計画が順調に進んでいるのだから七武海加入は彼にとって利益を生むサインのようなものだ。

「クハハ……早く来い、A」

　──次はおれが勝つ。

　不敵に笑うクロコダイルは描かれたAを砂にすると、椅子から立ち上がり部屋を去る。

　彼が求めるのは、砂になるAでも惨めな姿を晒すAでもない。
　あの“ふざけた男”に自分が勝つ姿だけが、アラバスタ王国と同等の価値を生む“望み”だ。

　＊

『ぶぇっくしょんッ』

「おいおい、また風邪か？ようやく島についたってのに散々だな」

　船内にAのくしゃみが響く頃、サボテン島を出航した麦わらの一味御一行は次なる島“リトルガーデン”へと踏み込んでいた。
　島中に轟くのは猛獣達の悲鳴や雄叫び、鳥の囀りや羽の鳴く音、そして火山の噴火。見たこともない植物に寄生されたこの島は、リトルとは呼ぶに呼べない大きさ誇っている。

「こ……この島には上陸しないことに決定っ!!」

「そ、そうね……船の上で記録が溜まるのを待って、は……早くアラバスタへ行かなきゃね」

『おれも賛成』

　ガタガタと震えるウソップとナミを餌に、Aはサボる口実ができたと内心ニコニコしていた。
　しかし、ジャングルには冒険がつきもので、Aは当然巻き込まれることとなる。