ワニの執着心 ページ40
──言ったとおり四肢でももいだか？ でなけりゃァ、あいつは這いずってでもてめェの首を狙うぜ。
「……ええ、きちんと」
──そうか、それはごくろう。奴は今いるか？ 声が聞きてェ。
「……残念ながら、今はぐっすりと眠るように気絶してますよ。蹴っても起きないぐらいに」
“四肢をもぐ”という物騒極まりない言葉に顔を引き攣らせたサンジの返答に、クロコダイルは「残念だ」と言いながら嘲笑った。
＊
「残念だ」
カラン……と、氷が軋む音が、静かな部屋に響いた。
こちらを興味津々に眺めるバナナワニをよそに、クロコダイルは受話器片手に花瓶に生けてある花を1本手に取る。
受話器の向こう側にいる“Mr.3”に煽られたクロコダイルの心は、砂漠の砂のように乾ききっていた。
Aを仕留めた、または仕留めなかったと曖昧な返事を返し、“任務完了”という嘘をついたMr.3を始末する方針で考えをまとめたクロコダイルは、持っていた花の水分を奪い、枯らすと電伝虫の受話器を元に戻した。
3は3でもMr.3ではない男のことなど気にもとめず、クロコダイルはバナナワニと戯れるロビンを背に立ち上がった。
「ミス・オールサンデー、Mr.2をリトルガーデンへ向かわせろ。“アラバスタ”“リトルガーデン”間の直接航路でMr.3を始末し、Aを回収させろ」
「……随分乱暴なのね」
「人手なら足りている……おれに口答えをするのか？」
直接クロコダイルの顔を見なくても感じる殺気に、ロビンは大人しく従うと言って背を向けた。
カツカツとヒールを動かすロビンの足が、ふっと止まった。
「一つ聞いていいかしら？ なんでAという男に執着するの」
「気になるのか」
「ええ、とても興味深いわ。彼を勧誘するならあまり歓迎はしないことをおすすめするわ。だって彼、人に仕える目をしてないもの」
笑みをこぼしたロビンは、皮肉と嘘に塗れた男の顔を思い出したが、それはクロコダイルも同じだろう。
女も男も、命も愛も、どんな高価な餌にも食いつかない彼が唯一ヨダレを垂らし食らいつくものが金という存在ただ一つ。
そのことをよく知っているクロコダイルが煙を吐き出すように「そのつもりはない」と答えると、歩みを続けたヒールの音は扉が閉まる音とともに聞こえなくなった。
「ようやくてめェの面が拝めるみてェだな」
A。
カランッと、氷がまた音をたてて嗤う。
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作者名：ヒロ子 | 作成日時：2022年9月22日 19時
