010:扉を開けるには ページ10
*
脊髄反射で跳ね上がった。
こんなに間近でこいつを見た事など、ある方がおかしい。澁澤龍彦から視線を外して、ドキドキした心臓と呼吸を抑えながら、犯人である男をキッと睨んだ。
「ドストエフスキー!!」
「…なるほど、この課題は一連してAさんが関係しているようですね」
そんな私を露知らず。
乙女心を軽率に扱った男はなんの気も知らずに顎に手を当て、そしてゆっくりと私を見た。
しかもこの部屋が───
「……待ってくださいね、今なんて?」
怒る暇なく耳を疑ったあと
無表情のままのドストエフスキーに聞き返した。
聞き間違えじゃなければいいんだけど
私には聞き取ることができずさっぱり、理解ができなかった。
いや、理解は出来ているけれど、意味が分からなくて────というか、理解したくなくて。
「貴方が鍵のようですよ、Aさん?」
瞬きをしてから吸血鬼のような男が淡々と口を開いて、それから私の名を出した。
自然と脚がふらついた。
身体が、阿呆なことを言うんじゃないと言っているみたいに。
「今の出題で分かるだろう。
自己紹介にしろ…いいや、今まで全部だな」
「まあ実際、彼の言う通りだと思うよ」
これが、天才たちには飲み込める状況らしい。
首謀者は一体私とどんな関係で、その上何を考えているのだろうか。
分からない。ぐるぐるとした頭の中で氷のようた透き通った地面を見詰めた。扉はちっともあきやしない。
苦虫を噛み潰したような
けど、弱々しく曇るなんとも言えない表情の私は、小さく息を吸う。
「……本気で言ってます?」
あっさりとした彼らを置いて
静かな空間に、私は問うた。
閉ざされた扉の紙切れには、私が澁澤龍彦の膝に座ってから既に文字が浮かんでいる。
ぼんやりとしていて、詳しい指定もない。
外れたら繰り返し行う羞恥。
それもこいつらは、私が関係すると最終決定を出したじゃないか。
「……手の甲にキス、って、私が、やるんですか」
縋る先もなく何も無い空間に問えば、3人の視線が空中で交わっていた。
次の課題を前にして
なら、この扉の中にいたままでいいと初めて思う。
あわよくばもう眠りにつきたい。
だってあの太宰さんが、目の前で微笑んでいるから
「まあやってみようじゃあないか」
高い背を前にして影がかかる。
その前にしゃがんだ太宰さんは、何故か手のひらを私に差し出していて、狼狽える私に言う。
「さあお手を、白雪姫」
192人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
三斗(トリップ願望者) - 更新をお願い致します!(土下座)楽しみにしてます! (2022年6月23日 0時) (レス) @page11 id: 9ad11557a3 (このIDを非表示/違反報告)
太宰治 - この作品大好きです!お忙しいかもしれませんが、是非続きが読みたいです! (2021年3月26日 10時) (レス) id: 09b07293c3 (このIDを非表示/違反報告)
白壇 - 言葉選びも展開も面白いです!好きです!!抱いて((天才ですか!?お忙しいのだと思いますが、是非続きが読みたいです…! (2019年11月27日 1時) (レス) id: 42869b6ef5 (このIDを非表示/違反報告)
宰原叶(プロフ) - 専門学生はつらいよさん» いえいえ!頑張ってください!! (2019年8月17日 21時) (レス) id: a120f73047 (このIDを非表示/違反報告)
Regulus(プロフ) - いえいえ(* ´ ▽ ` *)これからも更新楽しみにしてますね!無理しない程度に頑張ってください(*≧∀≦*) (2019年8月17日 20時) (レス) id: 9c91fd3a1d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:社畜 | 作成日時:2019年8月7日 10時