【wrwrd!】人形の夢 (ページ5)

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第二幕ページ5

生まれた時から"色"がわからなかった。
そもそも"色"とはなんなのか。
甘いのか、素敵な匂いでもするのだろうか。
なんて、匂いがするわけないだろうに、
ただ1人で何も映さないこの瞳で空虚を見つめ、
与えられた"歌"というたった一つの玩具を
弄ぶだけの毎日を過ごしていた。
そんなある日、何処からか誰かの泣く声がして何となく歌った、
悲しく、それの痛みがまるでわかるかのような、悲しい歌を。

____思えばあの時、歌を歌わなければ、
"アレ"に目をつけられることなんてなかったのかもしれない。

あの泣き声を聞いて暫くして、私を訪ねてきた人がいた。

『君がAだね。うむ、実に美しい声だ。
まるで傷が癒されていくような、素敵な声だ』

男の声だった、柔らかな、安心するような声。
ああ、私は1人ではなくなるんだとそう思っていた…

はずだったのに。

彼は実業家のコルぺ･アルバーノ。
彼は多くの企業を名のある有名会社にしたやり手の社長でもあり、世界でも有名だ。
しかしそれはあくまで表向きである。
裏の顔は隠れて生活をする異能を持つ子供などを見つけ、
育て、軍に売りつけるか、
悪趣味な貴族にでも売りつけるような売人だったのだ。
その事実を知った時、
私もいつか誰かに売られるのだとそう思っていた。
しかし彼は、私を売らなかった。
歌の上手な私を使い、別で金儲けをしようとした。
彼の読みは正しかった、私の歌声は瞬く間に有名となり、
いつの間にか「歌姫」などとも呼ばれていた。
彼は嬉しそうだった、いつも私を褒めてくれた、
例え私を使ってお金を儲けていたとしても
頭を撫ででくれるあの手は優しさを感じた、
だから、彼のことを信じていたかった。
今思えば、私は彼の都合のいい人形にすぎないのかもしれない。

＿＿＿＿＿そして、彼に引き取られ、
歌い続けて１０年が経っていた。

相変わらず、私は"色"というものを知らない。
私の世界は変わらず真っ黒のままなのだ。
そして、私の体に何重にも巻き付いた糸は取れず、
動けば動くほど絡みつき、
私はどんどん人ではなくなっているような感覚に陥っていた。

それでも私は、

『ああ、A。今日もあの声を聴かせておくれ。
今日はお偉いさんもいらっしゃっているらしいからなあ・・・・』

彼から離れては、生きていけないのかもしれない。

目元を這う冷たい指に私はもう逃げられないのだと悟っていた。