陰と陽【不死川実弥】 ー 弐 ー

73話、家族になろうよ ページ31

それから、およそ半年経った頃。

元風柱邸の重厚な門の扉の横には、｢不死川｣と真新しい字で書かれた表札が下がっている。


実弥が1人住まいだった頃は、必要最低限の物しか置いておらず閑散とした屋敷だった。だが今では、庭は美しい枯山水と化している。

玄関の下駄箱も一新され、男女の履物が仲良く仕舞われていた。その上には白無垢姿のA、黒五つ紋付き羽織袴を纏った実弥が嬉しそうに見つめ合っている写真が飾られ、日付の所には"祝言の日"と。


そして、居間の床の間には立派な刀掛台が置かれ、3本の日輪刀が大切に並べられていた。



━━━



今日は、夫婦で商店街に来ている。
散策だけで無く、ある人達と会う約束なのだ。

それは。

｢あ、いた！蜜璃〜！伊黒さ〜ん！｣

蜜｢あ、いたいた！新婚さん！｣


頼もしき戦友達だ。
皆すっかり私服で、隊服姿の頃が懐かしい。


実｢久しいなァ、伊黒。｣

小｢ああ、いず…どちらももう不死川だったな。｣

鏑丸も顔を覗かせ、シュルルっと舌を出した。


｢貴方達も、どっちも伊黒さんでしょ？｣

蜜｢きゃっ♡照れちゃうわ！ねぇ小芭内さん！｣


実は、この2人もめでたく結ばれたのだ。

両者結婚した後も、何らかの交流は続いていたらしい。今日も今日とて食事会だ。


｢何食べたい？｣

蜜｢どうしようかしら…ね？｣

実｢Aと甘露寺で決めろォ。｣

小｢不死川、もう蜜璃は甘露寺じゃない。蜜璃、Aさん、2人で好きなのを選ぶと良い。｣


鬼殺隊の時は棘が凄かった夫達も、妻には甘い。



━━━



不死川家と伊黒家の食事会がお開きとなり、Aと実弥は家路に着く。


｢楽しかったわね！｣

Aは嬉しそうに歩いていたが、石につまづいて転びそうになった。が、実弥がガッチリ支えて間一髪セーフ。


実｢おィィ、勘弁しろよォ｣

彼は大層心配そうに彼女を抱き寄せた。

｢ふふ、ごめんなさい。つい。｣

実｢つい、じゃねーの。Aと"腹のガキ"に何かあったらどーすんだア｣


腹のガキ。彼女のお腹には、2人の愛の結晶が宿っていたのだ。


｢びっくりしちゃったかしら。｣

Aは、まだ目立つ程膨らんでいない腹を撫でた。
その上に実弥の手が重ねられる。


実｢元気に大きくなれよォ｣

その声は、信じられないくらい優しい。

｢貴方に会えるのが待ち遠しいわ。｣

彼女もまた、優しい母の顔つきであった。




実｢俺が幸せにしてやらァ。Aも、こいつも｣

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