72話、勘違い ページ30
季節は過ぎ、今は夏。
Aと実弥が出会った季節だ。
2人はあの頃のように縁側に腰掛け、夏の夜風に当たっていた。前と違うのは、仲睦まじく繋がれた手。
軒先に下げられた風鈴は風に吹かれ、艶がありつつも何処か心地良い音を鳴らしている。祭りでもやっているのか、遠くには花火が上がっていた。
「花火なんていつぶりかしら。」
夜に行動していた現役時代。当時は、夜空なんて嗜んでいる暇は無かった。だからこそ、暗闇に咲く花は新鮮で美しい。
実「…ああ」
いつもと違い、素っ気無い返事。それより心ここに在らずという感じの方が正しいか。
どうしたのかしら、Aは不安になった。
嫌われた?怒ってる?具合悪い?悪い考えが頭の中をぐちゃぐちゃに掻き混ぜる。
実「……なァ、」
「は、はい」
実弥が低い声で言うもので、思わずかしこまった。
実「この関係、やめねぇか」
頭を鈍器で殴られたような、強い衝撃が走った。それが落ち着くと共に、今度は戸惑いの涙が目に溜まる。
昨日までは普通だった。好きだと、愛してると言ってくれたのに。
何で…?
Aの目からボロボロと涙が溢れた瞬間、
実「あ、いやっ、そーいうんじゃねェ!悪かった!悪かったって!」
実弥が慌てて彼女を抱き締めた。
「じゃあ何よ」
怒り、荒くなった声でAは攻めるように尋ねる。
実「…夫婦、にならねぇかって事だァ」
シーン。辺りに沈黙が流れた。
「……何よ」
彼女はボソッと呟いてからまた泣き始めた。また傷付けてしまったのか、実弥は戸惑う。
すると。
「そういう事なら始めからそう言いなさいよ!」
Aはガバッと頭を上げ、彼の頬を両手で抓った。
いくら女性とはいえ元帥だったA。引き千切っても可笑しくないくらいの怪力だ。
実「…ぃっだだだ!悪かったっての!」
実弥の必死の謝罪により、それはなんとか解かれた。だが、この怪力女がァと呟いたのを見事に聞かれ、更にもう1発食らう。
━━━
一悶着過ぎ、実弥は改めてAを見据えた。
彼女の手を取り、優しく握る。
実「A…俺と、生涯を共にしてくれるかァ?」
Aの目からはまたも大粒の涙が流れた。
それを拭った彼女は、今までに無い程の満面の笑みを浮かべていて。
「勿論です。」
そう言って実弥の胸に飛び込んだ。
逞しい彼はちゃんと彼女を受け止め、
実「俺にお前を一生守らせろよォ」
愛しい嫁の唇に口付けた。
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韓国海苔ごはん(プロフ) - さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き)さん» ありがとうございます!それとご指摘ありがとうございます。ほんっと困るくらい見落としが多いのでとても助かります…しかも槇寿郎さんが好きとはなんと渋い!! (2021年4月5日 10時) (レス) id: 23bf08a048 (このIDを非表示/違反報告)
さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き) - 完結おめでとうございます!とても良いお話だったと思います(*^_^*)・・・それと すいません、あとがきの所の槇寿郎さんの名前の(槇)の字が(槙)になってます・・・ (2021年4月4日 15時) (レス) id: c50ca7ded5 (このIDを非表示/違反報告)
韓国海苔ごはん(プロフ) - 浅葱さん» ありがとうございます! (2021年2月6日 9時) (レス) id: 23bf08a048 (このIDを非表示/違反報告)
浅葱(プロフ) - 続編移行おめでとうございます!これからも頑張ってください! (2021年2月5日 21時) (レス) id: 11ffe6e997 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:韓国海苔ごはん | 作成日時:2021年2月5日 21時