50話、喫茶にて ページ6
喫茶店は、ティータイムを楽しむ客で溢れていた。1階は満席だったので、2階の窓際の席に通される。
黙りこくる2人だったが、実弥が思い切って切り出した。
実「出雲さん、」
「は、はい。」
何故か敬語になってしまう。
実「あん時は…悪かったなァ。大人気無かった。」
「私も、強く当たってごめん。」
実「でも悪ぃのは俺だァ。家族の問題に部下達まで巻き込んでよ…柱として不甲斐無い。」
「分かってくれたなら良いの。私もその為にした事なんだから。」
実「その…ありがとうなァ。出雲さんがいなかったら、危うく玄弥と竈門を再起不能まで追い込む所だったぜェ。」
そう言うと、彼は恥ずかしそうに笑った。普段は見せない、少年らしさを含んだその表情。Aは自身の鼓動が早まっていくのを感じた。
「…どういたしまして。また今度そうなったら、私が止めてあげるわ。」
実「ハッ、そりゃあ心強ぇことだ。」
2人は窓の外を眺めた。商店が立ち並び、人々が忙しなく行き交っている。
「ここからの眺め、素敵じゃない?こんな仕事の私達だけど、一瞬だけ平凡に浸れる。杏寿郎ともこんな話をしてた。」
Aは視線を変えぬまま呟いた。
実「言われてみりゃあそうだなァ。」
実弥は一応返事したものの、心ここに在らずのようだ。
杏寿郎。彼の名前を聞いた途端、自身に託された遺言を思い出した。
ーAを頼む。
託されたとは言ったものの、義務感を感じたことは一度も無い。言われなくとも、実弥はAの傍にいるつもりだった。
初めて、一緒にいたいと思えた人だったから。
だが、杏寿郎の遺言も実弥にとって特別な物だった。亡き仲間との大切な思い出を繋ぎ止める綱のような存在、そして、想い人の兄から託された、自分にしか遂行出来ない使命でもあるから。
実「出雲さん。」
実弥は彼女に向き合った。
「どうしたの?そんな真剣な顔して。」
彼女は少し呆れたように笑う。
実「俺がずっと傍にいる。拒否権は無ぇぞォ。」
「あら、いつ私が貴方の女になって?」
嬉しいくせに、Aはフンと意地を張った。
実「逆にそう思える頭が羨ましいぜェ。」
彼も負けじとそれに応える。
「言うようになったわね。」
気まずい雰囲気は、既に消えていた。
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韓国海苔ごはん(プロフ) - さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き)さん» ありがとうございます!それとご指摘ありがとうございます。ほんっと困るくらい見落としが多いのでとても助かります…しかも槇寿郎さんが好きとはなんと渋い!! (2021年4月5日 10時) (レス) id: 23bf08a048 (このIDを非表示/違反報告)
さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き) - 完結おめでとうございます!とても良いお話だったと思います(*^_^*)・・・それと すいません、あとがきの所の槇寿郎さんの名前の(槇)の字が(槙)になってます・・・ (2021年4月4日 15時) (レス) id: c50ca7ded5 (このIDを非表示/違反報告)
韓国海苔ごはん(プロフ) - 浅葱さん» ありがとうございます! (2021年2月6日 9時) (レス) id: 23bf08a048 (このIDを非表示/違反報告)
浅葱(プロフ) - 続編移行おめでとうございます!これからも頑張ってください! (2021年2月5日 21時) (レス) id: 11ffe6e997 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:韓国海苔ごはん | 作成日時:2021年2月5日 21時