前にも言ったはずだけど ページ15
いつものように僕の部屋に訪れた恭弥。冷蔵庫を開けて中を覗く恭弥に血の気が引いた。
飲み物はセルフでって言うんじゃなかった！ああ、忘れてた！僕のバカ！
｢君、また食事をしていないね｣
頬を掴まれて強制的に目を合わせられる。ゆらゆらと漂わせた視線は次第に地面に落ちた。しばらくご飯を食べるのを忘れてた……。
恭弥に怒られるの分かってたのにね。つい忘れてしまうんだ。
｢う、だって……｣
｢言い訳はいらないよ｣
ごめんなさいと目を伏せれば、深く深くため息をつかれた。
｢だ、だって、1人でご飯を食べても美味しくないんだもん……｣
結局そうなんだ。自分で作ったご飯なんて味が知れている。食べていて楽しくないし、咀嚼するだけ億劫だ。たかが自分のためだけに食事を作るのも、1人で食事をするのも、慣れてたはずなのに。
誰かと一緒に食べていた記憶が邪魔をする。人間らしい生活を手放した身体が不可能を可能にする。
「それなら、僕のところへおいで」
「……ぇ、」
「君1人の食事量なんてたかが知れてる。増えたところで負担にならないよ」
甘ったるいくらいの声で恭弥がそう言った。脳みそに染み込んだ言葉が思考を溶かす。何も言えないまま呆然とする僕を引き寄せて、ゆっくり唇が重なった。
繰り返し触れる熱が湧いて出ようとする反論を潰して、ずぶずぶと溺れていく。
僕がダメにされそう。こうやって恭弥が受け入れてくれるから、甘やかしてくれるから。
恭弥の首に腕を回して与えられるものを受け止める。柔らかな熱と優しい手が愛おしい。もっとって思うのに、酸素が足りなくてクラクラする。
不意にキスが止んで、目を開けた。目元を親指で撫でられて、少し目を細める。
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作者名：怜
| 作成日時：2023年9月2日 16時
