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「殺したくないなら、いつも通り手加減をすればいいだろ。最も僕がそうさせないけどね」
「相手の力量すら測れないほど落ちぶれたんですか」
「戦ってみないと分からないよ」
苛立ちが腹の底に溜まっていく。ただ気を紛らわせたかっただけなのに、これじゃ逆効果だ。
そこまで言うのなら、完膚なきまで殺してみせようか。力の差を明らかにすれば、ヒバリさんも今後は容易くバカなことを言えないはずだ。
「それとも、僕と本気で戦うのが怖いの？」
「っ！？」
心臓が跳ねて目を見開く。全然言葉が出なかった。そんなわけないって言いたいのに、嫌な音を立てる心臓が焦りを生む。
まさか、と呟いて俯いた。ようやく出た言葉には説得力の欠片もない。殺すことは怖くないはずなのに。例え間違って殺したとしても、僕には関係ないはずなのに。
恩人だから殺すのが忍びないのかな？エンティティさまに命令されたら躊躇なく殺せるはずなのに、自ら手を下すのは嫌だって思ってしまう。
「なるべく殺さないようにしたいんです」
「暗殺部隊に身を置いて人を殺してきた人間とは思えない言葉だね」
「無関係の人を殺すのとは訳が違いますよ」
眉を下げてそう言う。僕はヒバリさんと馴れ合いすぎたんだ。だから、戸惑ってしまう。殺したくないなんて思ってしまう。
「僕は等身大の君を咬み殺したい」
「でも、」
「手加減するというのなら、構わないよ。ただ僕は本気でいく」
唇を噛んだ。偽りのない言葉に躊躇した。今更意志は揺るがないと知っているから、結局僕が譲るハメになるんだ。
ああ、言わなきゃ良かった。鬱憤を晴らすためとはいえ、別の方法を取るべきだった。例えば、甘いものをたくさん食べるとかね。
「……分かりましたよ。その代わり、本気は出しませんから」
「そう言っていられるのも今のうちさ」
そうかな。僕はまだ力の差が埋まっていないと思っているけど。そう言うのもなんだか気乗りしなくて、ゆるく首を振る。
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作者名：怜
| 作成日時：2023年2月20日 23時
