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「どこに行くの」
「目が覚めただけですよ」
起こさないように気をつけてたんだけど。苦笑して答えれば、ゆるりと瞳が閉じられた。ぐいっと手首を引っ張られて、ヒバリさんの隣に寝転ぶ。えー、と抗議の声を上げても離されることはない。
僕、もう眠たくないんだけど。ぶつくさと文句を言っていると、ヒバリさんが目を開けて非難するように僕を見た。
「2日も寝てないんだろ。もっと寝るべきだよ」
咎めるような声色に首を竦める。昨日の、聞いてたんだ。話し声で起きちゃったのかな。
ヒバリさんは僕が人間らしい生活をするように言いつけるのが好きなんじゃないかと思うほど、こういうことにはうるさい。食事を疎かにしようものなら、ヒバリさん宅の使用人のお手製弁当やらお菓子を渡されるし。睡眠をとっていなかったら、今みたいに寝ろって催促される。
不摂生したところで何の支障もないのに、どういうわけだか、すぐに気付いて指摘されるんだ。もしかしたら、僕の知らない見分け方があるのかもしれない。だけど、隈もできないし、痩せないし。どうして気付かれるんだろう？
まあ、それはともかく。
「僕は寝なくても平気なんですよ」
「その割には応接室で昼寝してるけど」
「それは暇なときだけじゃないですか」
「僕の家に泊まったときも寝てた」
言葉に詰まると、ヒバリさんがくっくっと喉で笑う。
「確かに君にとって睡眠は重要じゃないかもしれない。だけど、寝たほうがいいのは変わらないだろ」
「でも、初めて会った頃よりはマシになりましたよね？」
「今も褒められたものではないよ」
へらっと笑って目を逸らした。それから目を閉じて、身を縮める。寝る体勢に入れば、ヒバリさんは手首を離してくれた。
うとうとと微睡みながら、ふとあのノイズ混じりの言葉を思い出す。何かを忘れている僕が、思い出しかけたこと。ゆっくりとヒバリさんを見れば、既に寝息を立てている。
また今度聞けばいっか。今すぐじゃなくてもいい気がする……。
ふと目に止まったヒバードを撫でる。でろーんと溶けていくヒバード。猫は液体って聞いたことがあるけど、もしかして鳥も液体なのかもしれない。かわいー、と呟いて目を閉じた。
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作者名：怜
| 作成日時：2023年2月20日 23時
