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もちもちと頬を揉まれて、Aが呻く。ヒバリの手首を掴んで外そうとして、そのままAは動きを止めた。しょんぼりと明らかに落ち込んでいる表情に、ヒバリは込み上げる幸福感を押し留める。
本気を出させたいと言ったのはヒバリだ。その過程で死んでしまったとして、さして悔いは残らない。しかし、Aは後悔し、罪悪感を抱くというのだ。あの本性を丸出しにしたかのような笑みから一転して、悲しみをあらわにするのだ。
ヒバリの様子を窺い、殺さずに済んだと安堵する表情に、可愛いという三文字の言葉がくるくると回る。
「帰ろうか」
「はい。ヒバリさんの手当てもしないといけませんし」
「君がしてくれるの？」
揶揄うように言ったヒバリに力強く頷くA。
実はDBDには回復系のパークはそれなりにある。しかし、それはエンティティの支配下にある人間にしか効果を発揮しない。DBDという世界の住人だけが恩恵を受けられる。そのため、いくらパークを使おうとヒバリの怪我がすぐに治ることはない。
行きと同じように手を差し出すA。血塗れの手で握ったヒバリは、Aと共に霧の道を歩き出した。
「Aは未来の僕と戦ったことがあるんだろ」
「はい。……それがどうかしましたか？」
「どうだったの」
目を瞬かせるAはヒバリを横目で窺うと、小さく笑う。そうですねぇ、と思い出すフリをして、Aは口を開いた。
「強かったですよ。引き分けにもっていかれました」
「怪我なんて治るくせに？」
「満足するまでっていうルールだったので」
ふうんと気のない返事をするヒバリ。
「そういえば、綺麗ってどういうことですか？」
「聞こえてたの」
「聞こえてなかったらあのままグサリ、ですよ」
ヒバリはしばらく考え込む。ただそう思ったことに、あまり理由はない。引き寄せられるような赤い瞳が元よりお気に入りなのだ。
笑うときに細まる目、戦うときの鋭い双眸、滅多にお目にかかれない涙を湛えた瞳が揺れるときも、向けられるのが全て自分だけならいいのに、と思うことがある。
しかし、ヒバリには言うつもりなどない。徐々に先が明るくなっていく霧の道の半ばで、ヒバリはぽつりと呟く。
「君の目が綺麗だったから」
無邪気な瞳が、もっと遊びたいという瞳が、綺麗だったのだとヒバリは言った。
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作者名：怜
| 作成日時：2023年2月20日 23時
