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再び2人の応酬が始まる。1対のトンファーと1本のナイフでは手数が違うものの、そんなものは些事だった。
速さを増したAが軽々とトンファーを捌く。棍棒より軽いナイフを自分の体の一部かのように操る様は美しいという言葉以外は似合わないだろう。数十分にも感じられるほどの猛攻はわずか数分の間で行われる。
それを何度か繰り返していると、徐々にヒバリの息は切れていった。反対にAの息は全く切れる様子がない。それどころか、段々と速く重い攻撃になっていった。血のように濃い赤い瞳にどろどろとした愉悦が灯る。
「もっと、遊びたいな」
その言葉を皮切りに、Aが地面を蹴った。その姿が残像を作る。反射的にトンファーを振るったヒバリの眼前にナイフが突き立てられた。あと少し遅ければ、完全に目を潰していたナイフ。一切迷いがない動きで、人を壊そうとする。Aの歪みが姿を現していた。
本人曰く『楽しくなると手加減が難しい』とのことだ。ネコがネズミにじゃれついて誤って殺してしまうように、Aにとって人間は
トンファーでナイフを弾く。ヒバリがかけた足払いを飛んで躱したA。そのまま宙返りをしたAの踵落としをトンファーで受け止める。体重に見合わない重い一撃をなんとか受け流したヒバリの視界は、次の瞬間反転していた。
ヒバリを押し倒したAがナイフを振り上げる。逆光の中、赤い瞳だけが光っていた。
「綺麗だね」
振り下ろされたナイフがヒバリの鼻先で止まる。拘束されていない手はトンファーを手放して、Aの頰に添えられた。切り傷から血が流れているのも気にせず、目元をなぞる。
「うん、綺麗だ」
瞬きを繰り返すA。ナイフを消しておずおずとヒバリの上から退くと、数歩後退りをした。現状をようやく飲み込んだのか、遠くなった距離を縮めてヒバリを助け起こす。
「ごめんなさい!」
「何が?」
「だって、あと少しで、」
殺してしまうところだった、と続く言葉を遮るように、ヒバリがAの頬を両手で包む。
「僕は楽しかった。Aは?」
「そりゃ楽しかったですけど……」
「ならいいよ」
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作者名:怜 | 作成日時:2023年2月20日 23時