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それからまた特訓に明け暮れる日々が続いた。特訓をしている間は何も考えなくていいから、気が楽だった。
ひたすら体を動かすだけで、思考がクリアになって、目の前のことだけを考える。特訓が終われば、また雑念が戻ってくるのが嫌で、すぐにシャワーを浴びて布団に潜った。眠れば何も考えなくていいから。
そんな僕を見かねたのか、ヒバリさんは部屋に訪れることが多くなって、僕を連れてアジトの中を練り歩くのが日常となった。そのおかげでアジトの脳内マップは完成しつつあるのだから、皮肉だ。
結局僕は何なのか、結論は出せないままでいる。人間のようにすぐ死ぬわけでもない。だとしたら、化け物なのか。いいや、化け物にも意志はあるはず。自分を最優先とするくらいの強い意志が。
僕は僕を優先順位の一番目に置かないから、違うはずなんだ。だからこそ、操り人形だと、傀儡だと思っていた方が楽だった。
僕はエンティティさまの信者で、人間はやめたはずで、……？
じっと見られていることに気付いて顔を上げる。数歩先で止まっているヒバリさんはこちらを振り返っていた。それで僕が足を止めていたのだと悟って隣に並ぶ。目を細めたヒバリさんはまた歩いていった。今度は止まらないように足を動かす。
「君はまた下らないことで悩んでるみたいだね」
「くだらないって、あなたがそれを言いますか……」
「下らないさ。君は自分が種族の枠に綺麗に収まるとでも思っているの」
バカだね、と薄く笑われた。眉を顰めれば、流し目に見たヒバリさんがまた口を開く。
「マインドコントロールにかかったままだと僕に都合が悪かっただけだ。君は人間じゃない。人形でもないけどね」
「……余計に分からなくなりましたよ」
「はぁ……君は君だろ。人間だとか人形だとか関係ない、Aという生き物だ」
深くため息を吐かれて、一瞬ムッとした。けれど、続いた言葉が優しすぎたから、また何も言えなくなる。
縋りつきたくなるのはどうしてなのか、理解できないほど愚かではないから。やっぱり離れなきゃいけないんだと思う。この人の隣にいたら、僕は弱くなってしまうから。エンティティさまの信者としての僕が揺らいでしまうから。
不意に足を止めるヒバリさん。考えている間に僕の部屋についてたみたいだ。
「精々悩めばいいさ。君の結論を楽しみにしてるよ」
それだけ言ってヒバリさんは背を向けて歩いていく。それを見送って僕は自室へと入った。
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作者名：怜
| 作成日時：2022年10月24日 23時
