＊＊＊ ページ42
「君の特訓は明日からだ」
「なんでですか？」
「炎に体を慣らすのは負担がかかりすぎるからね。ただでさえ、今日浴びたばかりなんだ。特訓は控えてもらうよ」
むすっと頬を膨らませる。無言のまま抗議をしていれば、ヒバリさんは笑みを浮かべて手を伸ばした。それが僕の頬を押し込んで気の抜けた音が鳴る。それから目尻を優しく撫でられて目を瞑った。
「君は本当に変わらないね」
「……そうですか？」
「うん」
そっと目を開けると、愛しいと全面に押し出した表情で、ヒバリさんは僕を見ている。苦しくて泣きたくなってしまうけど、それは僕がしちゃいけない。過去に戻れば、僕はヒバリさんから離れるから。
だから、束の間だ。未来は変わる。苦しいのも、今だけ。いずれなかったことになるから。
「君には苦労させられたよ」
「そんなことないと思うんですけど」
「……僕から逃げようとしたからね」
「っ！？」
心を読まれたのかと思うほど、寸分違わず思考を当てられる。目を見開いてヒバリさんを見れば、静かに笑っていた。というか、逃げようとした……？過去形ってことは、もしかして僕は失敗したの？この僕が？
混乱している僕を放って、ヒバリさんは頬を撫でながら口を開く。
「僕の執着心を甘く見ない方がいい。たとえ、君が世界の裏側にいたとしても見つけ出すよ」
「さすがに、それは……」
「ないと言い切れるかい？まさか、もう遅いよ」
遅い？どうして？10年前ならまだ間に合うんじゃ……？……まさか！まさか、そんなはず……。
「残念だったね。君があまりにも魅力的だったのが悪い」
衝撃的すぎてくらりと眩暈がする。はくはくと金魚のように口を動かすばかりで、言葉は声にならなかった。一瞬ヒバリさんの嘘なんじゃないかと疑ったけど、ヒバリさんは嘘をつかない。その言葉に含みを持たせることもしない。
それは僕が一番分かってる。だって、ずっと近くにいたから。そんなくだらないことをする人じゃないと理解してしまっている。
「どんなに疑おうと、10年後の君が僕の隣にいるのは事実だ」
「そんな、だって、僕は、」
「許されないって？知っているさ。だから言っただろ。苦労させられたって」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 38人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：怜
| 作成日時：2022年10月11日 19時
