さんびゃくさんじゅうよん ページ2
「僕としては雄英の作戦に参戦しつつ、Aちゃんの様子を見るだけでも良かったんだ」
「でも、」
「分かっているとも。Aちゃんが不安なことも、迷惑をかけたくないことも。だからこそ、だよ。人はね、守るべき人がいるだけでも強くなれるものだ」
諭すように言うハカセが幼少期の記憶と重なる。大丈夫と慰めてくれたハカセが、わたしのことを誰よりも考えてくれていたことを、わたしは知っているから。
「とはいえ、僕も無理やり連れ戻す気はないんだ。Aちゃんの覚悟が決まったら、ハカセに言いなさい」
「ハカセ……」
「僕はいつだってAちゃんの味方だからね」
ウィンクをしてハカセは笑う。小さく笑えば、ハカセはわたしの頭を掻き撫でた。
そうしてつらつらと作戦を読み上げていくハカセ。わたしが対敵も救助もやると言うことを分かっていたかのように、その作戦はわたしの意志を考慮したものだった。
ああ、全くハカセには敵わないな。今までわたしを支えてくれたひと。そして、これからも力になってくれるひと。恵まれているなぁ、と噛み締めて前を向いた。
「この周辺の目撃情報は3件。Aちゃんのウォーミングアップも兼ねて、敵が少ない地方を選ばせてもらったよ」
「ここが制圧できれば、移動するんですね？」
「うん。その時の情報にもよるけれど、数の多い地域から制圧しようと思ってる。そのほうがAちゃんも安心できるだろう？」
「はい。ハカセ、ありがとうございます」
お礼は全部終わってからだと茶化すようにハカセが笑う。準備をするように言って、ハカセはパソコンの前に向き直った。後ろから覗いてみると、目撃情報の場所と敵の予測経路が地図の上に点々と置いてある。
ハカセがいるなら、敵を捕獲するのは簡単そうだ。じゃあ、わたしはきっちり仕事をしないと。
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作者名：怜
| 作成日時：2022年9月5日 0時
