幸せな夢を見た ページ22
「っ……！A……Aっ！」
目を開く。眼前に迫った顔は心配そうにAを見ていた。そうしてAは悟った。
これは夢である。
目の前の顔は輪郭がぼやけていて、聞こえているはずの声もどこか霧がかっている。ハッキリと自分の母親だと分かるのに、全てが朧げで捉えられない。
安心したように息をついたAの母は何かのボタンを押した。それから少しすると、医者のような人が入ってきた。
「京極さん、京極Aさん。私が分かりますか？」
ひどく反響する声に頷く。ほっと息をついたのは分かるのに、どんな表情かは見えなかった。
なんと滑稽な夢だろうか。なんと無様な夢だろうか。
早口で捲し立てる医者が奇跡だと言っている。どうやら夢の中では事故に遭ったことになっているらしい。生死を彷徨い、生還は絶望的だったと涙ながらに母が言っている。
生還などしていないのに。Aはまだ架空に囚われたままだというのに。
力の入らない腕を伸ばす。それを母親が掴む。温度のない手で、Aの手を握り、泣いている。
「か、あさん……」
「A……！ああ、よかった……」
泣かないで、と無性に伝えたくなるのは何故なのか。伝えてどうするというのだろう。これは夢なのに。それでも、声を振り絞った。
「かあ、さん……泣かんでよぉ……」
「あんねぇ……聞いて、」
「わ、たし……がんばるけん、頑張っとるけん」
温い雫が頬を伝う。徐々に白んでいく視界が夢の終わりを告げていた。
「……帰れたらねぇ……話聞いて、」
「そ、れから……たくさん、褒めて……」
「かあさん……だいすき、」
完全に白くなった世界で、今度は低い温度の手がAの手を掴む。夢から覚める時間だった。
ああ、まだ伝えきれていないのに。まだその声も顔も思い出せていないのに。
揺さぶられる感覚が強制的に現実へ引き戻す。低い声がAを呼ぶ。微睡は、夢はそこで終わってしまった。
目覚めた彼女の視界には相澤が映る。ああ、と諦念が胸をつき、魘されていたと言う相澤に、Aは薄く笑みを浮かべてこう言った。
「……幸せな、夢を見たんよ」
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怜(プロフ) - そこら辺の石さん» ありがとうございます！そう言っていただけると京極ちゃんも喜ぶと思います。またどこかの作品でお会いしましょう！ (2022年12月17日 0時) (
レス) id: 37b3e8feed (このIDを非表示/違反報告)
そこら辺の石 - あの、好きです。泣きましたいや、ちょ、本当好きです。喉を圧縮されたような悲しみです。おま、主人公お前、まだまだやり残したことあるだろうわ、すみません泣きましたありがとうございました完結おめでとうございます…！ (2022年12月15日 16時) (レス) @page39 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
怜(プロフ) - レン。さん» ありがとうございます！ワンピースは書きたいんですが、ひとまず他の長編が落ち着いたらかな〜と思っています。気長にお待ちいただけるとお待ちいただけるとありがたいです！ (2022年9月1日 0時) (レス) id: 37b3e8feed (このIDを非表示/違反報告)
レン。(プロフ) - ワンピース、、、ぜひ見たいです。凄く読みたいです…!!完結おめでとうございます！！ (2022年8月29日 1時) (レス) @page39 id: 009cff3277 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：怜
| 作成日時：2021年9月26日 5時
