Ver.死穢八斎會と遭遇した：Part8 ページ33
｢A…逃げられると思うなよ｣
後ろで低い声が紡がれる。仄暗い感情を宿したそれはどこまでも陰湿だ。でも、わたしは。
｢逃げてみせるよ、あなたから｣
きっと睨んだその先に、もう怖くなくなったその人がいた。
緑谷くんに手を引かれて走る。さっきのヒーローもエリちゃんも一緒に、緑谷くんが開けた穴を通った。小さくなっているエリちゃんを見ると、その目には涙が浮かんでいて。
｢もう…いいです…ごめんなさい……｣
絶対にこの子と助かりたいって思った。わたしは1週間くらいしか居なかったけど、それでもここはひどく心に悪い。そんなところにずっと居たら、精神が摩耗して笑えなくなってしまう。それに、我慢し続けるのはこの年頃には良くないよね。
いきなり緑谷くんがいなくなって驚くが、後ろから聞こえた床を踏む音で理解する。チラリと見ると、オーバーホールさんの前に立つ緑谷くんがいた。
｢諦めろ。俺の言った通りになるだけだ｣
___全員死ぬ___
絶対そんなことにはならないから。ねえ、だから。安心してよ、エリちゃん。
強くエリちゃんの手を握って、ヒーローと一緒に前へ進む。
｢その未来を捻じ曲げる！！｣
オーバーホールさんの相手をしている緑谷くんの声が遠くで聞こえる。こんなにも力強いなんて、知らなかったなあ。
今にも崩れ落ちてしまいそうなヒーローを支えながら、ゆっくりと、確実に前に歩いた。懸命に励ますけど、エリちゃんの表情は一向に晴れない。
その時聞こえた陰惨な声。
｢おまえのせいでまた死ぬぞ！これが望みなのか！？壊理！！！｣
強く繋いでいたはずの手は解かれて、エリちゃんは走っていった。青ざめ、追い詰められた表情をしていたエリちゃんを見過ごせるわけがなくて、わたしも後を追う。
｢壊理…こいつ一人でこの状況、なんとかなると思うか？｣
｢………思わない｣
｢なら、おまえは…どうするべきだ？｣
どんどん追い詰められていくエリちゃん。口を開いて言った言葉は。
｢戻る……｣
自己犠牲なんて、まだしなくていいのに。似合わないそれを選択させてしまったことに、悔しくて顔を歪ませる。そんな時、冷たい目と視線が交わった。
｢A、お前は壊理を置いて逃げられるほど、非道じゃないよな？どうするべきだ？｣
見透かしたようなその言葉に息が詰まる。でも、もう負けない。
｢エリちゃんと一緒に逃げるべき、だよ｣
絶対零度の視線を受けても、朗らかに笑っていようじゃないか。
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作者名：怜
| 作成日時：2018年5月10日 20時
