Ver.死穢八斎會と遭遇した：Part5 ページ30
｢すいませんね……やっぱ、少し話聞かせてもらっていいですか？｣
｢あの時の…｣
ピリリと空気が凍てつく。エリちゃんを保護しに来たというヒーローはわたしを見た途端、大きく目を見開いた。どういう意味だろう？
｢そちらの方は降魔Aさんですよね？その子も返してもらいます｣
どくん、大きく心臓が跳ねた。じわりと涙が滲む。わたしを助けようとしてくれている、それだけで充分だから。どうか、逃げて。死なないで。
｢Aがそれを望んだか？お前らにこいつの綺麗さが分かるのか？病人共と一緒に居させるより、俺と居た方がいい｣
オーバーホールさんは力強くわたしの手首を握った。逃がさないと言わんばかりの力で、まるで手錠のようだ。そのまま引っ張られて、強制的に歩かされる。
｢死ぬって事だよ｣
無情にも死刑宣告がされて、喉がひくついた。ここに監 禁されてから何人も見てきた、死んでいく人を。もう見たくないのに。わたし、何も出来ないから。
後ろで交わされる言葉の刃が彼に刺さる。見なくても分かる。心の柔いところをズブズブと刺されていく痛みが。首を絞められて、呼吸が出来なくなっていくように。心が折られていく。
｢そんなの絶対許せない！！治崎！！｣
いつの間にか来ていたヒーローがオーバーホールさんを殴って、クロノさんを蹴って、わたしとエリちゃんを救い出した。優しく手を取られて、もう大丈夫なんじゃないかと錯覚する。
｢あの人に殺されちゃう｣
そうだ、あの人は。
｢お願いだから、逃げてください｣
数メートル先でオーバーホールさんが確実に殺気を膨らませているのが分かる。触られた場所を執拗に擦り、汚いと繰り返すオーバーホールさん。
｢おまえの我儘で俺が手を汚さなきゃいけなくなる。おまえの行動一つ一つが人を殺す。呪われた存在なんだよ｣
エリちゃんが青ざめていくのを、わたしは見ることしかできなかった。なんと言えばいいのか、分からない。わたしは……。
｢賢いAなら戻ってくるだろう？さあ、今ならその間違いも許してやろう｣
ぐっと歯を噛み締めて一歩踏み出すと、腕を引かれた。振り返るとヒーローが首を振って笑顔を浮かべる。
｢大丈夫だから。助けてみせる｣
決意を込めて言われた言葉に揺れる。わたしは助かっていいのか。こんな時“個性”があったなら、邪魔にならなくて済んだのに。
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作者名：怜
| 作成日時：2018年5月10日 20時
