Ver.死穢八斎會と遭遇した：Part2 ページ27
続きを目で促され、渋々口を開く。
｢ごめんね？体調悪くて｣
『えっ！そうなん！？じゃあ、今日は休み？』
休みたくないのに…。ここから逃げ出せないから、休むしかない。歯を食いしばって、言いたいことを飲み込んで、いつものわたしで。
｢うん。先生にも伝えてくれる？｣
『分かった！お大事に』
｢ありがとう、ごめんね｣
プツッと通話が切れて、その人は柔らかい雰囲気を纏う。けれど、逃がさないという絶対的な意思は変わらない。
何がこの人の琴線に触れたのか分からない。分からないから怖い。いつもの知りたいという欲求は形を潜めて、今はただ恐怖に支配されていた。
｢そんなに怯える必要はない。お前はただ、そこにいればいい｣
｢……わかり、ました｣
まるで観賞用であると言わんばかりの態度に、怒りすらこみ上げてきそうなのに、この人のオーラがそれを抑え込む。
｢ただ、そうだな｣
お前に病気はいらない、と懐から注射器のようなものを取り出した。中に詰まった赤い液体がドロリと揺れる。なんとなく分かった。分かってしまった。それは血だ。
｢本来なら、これをお前に刺すことすらしたくない。綺麗なAの体内に他人の血が混ざるなんて許されないことだ｣
どくり、嫌な鼓動が鳴り響く。
｢Aが無個性であれば、こんなことはしなくて済んだんだが。こればかりは仕方ないな｣
動くなよ、と念を押して近付いてきた。キラリと注射器の針が蛍光灯の光に反射して光る。
躊躇なく針が肌に押し付けられて、中の液体がわたしに入った。これは何なんだろう。何かが失われていくような、普通じゃない感覚。
｢これは人の“個性”を消す。つまり、今日からお前は無個性だ｣
愉悦の笑みを浮かべながら、幸せそうに説明するその人に、頭が回らなくなる。
酷い目にあった、この“個性”のせいで。
でも、こんな“個性”でも大切なものだったんだ。
漸く、みんなと肩を並べてヒーローになれるって。
そう思ってたのに。
信じられなくて、いつものように手を合わせた。そして離しても、何も起こらない。
｢暫くは落ち着かないだろうが、じき慣れる。ああ、それから、その制服は嫌いだ。着替えてくれるよな？｣
呆然としたまま、頷く。全て壊れていった。こんなにも呆気ないものだったんだろうか。
｢クロノ｣
｢へい｣
｢風呂とAの着替えの用意をしろ｣
遠くで扉の閉まる音がする。
そうして、黒く染まっていく意識。
暗転した。
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作者名：怜
| 作成日時：2018年5月10日 20時
